パーツ換装
PF30での圧入式ボトムブラケット交換の作業方法
こちらの続きです。異音対策ということで圧入式のボトムブラケット(以下、BB)を交換することになったわけですが、最初はどうもうまくいきません。今回のBB規格はBB386、BB386はクランクを含めたFSAの規格。ということはBBパーツは同規格のPF30が使われているはずで、まず同寸のベアリングに対応するこちらのBB30用の専用工具を使って外そうとしました。
しかし、問題発生。BBパーツの真ん中に樹脂の筒があるためこの工具は使えなかった。BB30ならBBシェルにただベアリングが圧入されているだけだから何も支障ないけど、この筒が付いてると内部が狭くなるためPF30では使えないんですね。PF30でも筒なしのケースもありますが、今回はしっかり装着されていて物理的に無理だから別の手を考案することに。
圧入BBに付属されている筒の使用目的は?
BBシェルの中にある筒は、カップ&コーンのスレッドBBではウォーターシーフと呼びます。そちらは収縮できる筒で圧入式とは少し形が違うけどこっちのはなんと言うんだろう。スリーブ? シマノではインナーカバーと呼んでますがやっぱり筒のほうが呼びやすいから筒でいきます。
で、この筒はなぜ付いてるのだろう?
ウォーターシーフはその名のとおり(水を盗む?)、カップ&コーンではBBシェルの中で剥き出し状態になっているベアリングが錆びないように防水目的で使用します。クロモリ時代に流行っていた肉抜き加工のBBシェルは、雨天の時はそのままでは雨水が直撃するのでウォーターシーフが必須でした。
でも時代は変わって今やBBの主流はシールドベアリング。シーリングされた鋼球はサビ付く心配はないから、サビ防止が目的だったらこの筒は不要なものですね。BB30には付いていません。NinjaなどスレッドフィットBBのように左右を連結させるスリーブでもないので本来はなくてもよいものだと思われます。
付けているからには理由があるのでしょうが、それはおそらく、電動メカのフレーム内の配線ケーブルに対処するために用意されているのでしょう。内装式では筒がないとクランクシャフトに干渉してしまいますからね。(ちなみにシマノでは、昔は配線ケーブルを通すスペースが狭いハンガー用にもっと細い筒も用意していました)
ただ、電動メカに交換するためには、内装式フレームの配線処理は一度BBを外さなければいけないので、この筒を最初から装着しておく必要はないですね。脱着後にBBを再使用される方もいるかもしれないから(推奨されませんが)、その際に、BBにダメージを与えないよう交換する時のことを考えたら、完成車では最初から付けないでおいてもらいたい。
これはコンバーターに交換するときの作業のためにもお願いしたい。後述しますが、現状、PF30を脱着するための純正工具は見当たらないため、今回は他の工具を流用して外したらキズが付いてしまった。
なかなか見つからなかったPF30の取り外し工具
BB386の提唱メーカーFSAは、ベアリングが同じ規格のPF30を外す場合にこれに対応する専用工具は用意しているのだろうか?
ベアリングだけを外す場合は外側から外すこういう工具はあったようだが、カップを外す工具は見掛けない。もしやFSAが交換を考えているのはベアリングだけ?
今回のようにコンバーターに交換する場合はカップを外す工具も必要です。他社でもベアリングだけを外す工具は出しているけれども、カップの抜き工具は国内のFSA代理店でも扱いがないというし、サードパーティの工具を取り扱う仕入先に聞いても該当品はないようす。
そこで、ググッて調べてみたら通販でよさそうなのを見つけた。今まではPF30の異音はあまり聞いたことがなく交換の需要もなかったから専用工具は揃えていなかったが、今後は今回のように、コンバーターを使ってシマノクランクに換えたいというご依頼が増えていくかもしれない。
ちょっと悩んでます。その工具を用意しようか検討中なんですが、使い方を見ていたら、外側のカップを受ける治具がフレームを傷つけてしまわないか心配です(左上のでっかいやつね)。もうちょっと調べよう。
PF30の圧入BBを外す時の注意点
とりあえず、今回は他の工具を流用して外すことにしました。使ったのは写真の工具、これはヘッドセットのワンを外す時のヘッドワンポンチ。ほとんどのバイクがインテグラルヘッドとなって、今は使わなくなった工具の一つです。
一応、先端がカパッと開くシマノの工具ではどうだろうと当ててはみたけど(本来の使い方とは違いますが)、もちろん仕様が違うからカパッと状態でも開きが小さくてベアリングにさえ届かずそちらはまったく使えない。
では作業開始。まず、ポンチをまっすぐ入れてベアリングに引っ掛ける。カップからわずかしか見えないが金属だから端に掛かりさえすれば大丈夫。
下の写真左側はベアリングが外れている状態で、右側はBBを取り外したあとにベアリングをカップに戻した状態。ほんとはここで筒がなければベアリングではなくこのカップに直接ポンチを掛けて外します。装着状態では内部が見えませんが、筒があるからできないというのはこの写真をみるとよくわかりますね。
後述しますが、筒の延長線上は2箇所キズの付いている箇所がわずかに引っ掛かる程度で、最初は嵌合の抵抗を弱めるためにベアリングのほうを打ち抜くことにしました。
では、ベアリングとカップが一緒に外れることを期待しつつ一撃を加える。……やっぱり駄目か。カップとフレームの嵌合のほうが固定力が強いため、外れたのはベアリングだけだった。
ベアリングが外れたから、次は残ったカップに取り掛かります。
カップには、ただ真っすぐ入れただけではポンチはかすりもしない。カップ自体に引っ掛からないとそのまますっぽ抜けてしまう。
シマノの場合は構造的にカップに圧入したベアリングをフランジ部分が補強しているような構造なので、そのフランジに専用工具を押し当てるだけで外せるが、カップにただベアリングが圧入されているだけのPF30は、筒が装着されている場合はやっぱりカップそのものをしっかり外せる専用工具が必要だ。
今回の工具では、そもそも筒の内径がカップの内側の内径よりも実測で1mm狭かったから、まっすぐポンチを入れたら先っちょがカップに引っ掛からないのは当たり前。筒がなければカップにバチンとポンチが嵌ったのに、筒があるからポンチが拡がれずカップにしっかり掛からない。
そこで、ポンチを傾け下側をカップの角に当るようにして打ち抜くことにする。
ベアリングは一発で出てきたけど、カップはベアリングの嵌合よりも固いためポンチがずれないよう慎重に、ハンマーで一回一回打ち込むたびにカップの位置を確認。少しづつ抜けてきた。でもポンチはわずかに当たっていた程度だから、さっきの写真のように当たっていたところが2箇所とも削れていた。
ここで一つ大事なことがあって、それは叩き出す側でそれを受けるためのビニール袋とかを用意しておくこと。特にベアリングはかなりの勢いで飛び出てくるため、何かにぶつかって、ぶつかったものが壊れでもしたら大変です。
特にシマノプレスフィットの圧入BBを叩き出す作業では、このBBが丈夫な作りになっているその構造ゆえに、叩く時の抵抗も固いし、飛び出てくる時の反動も半端ないです。そういう面ではさっきの通販工具はじわ~っと押し出される感じで安心ですが、シマノに使えるかは不明。これも調べてみよう。
シマノプレスフィットで叩き出し工具を使う作業では、叩く時に、もともとカップの材質がプラだから叩く力が分散してしまって、シマノプレスフィットは圧入も固いのでかなり手こずるのです。シェル内のアルミが腐食しているケースでは特に。(メーカーの担当者が言うには、固着していたのかフランジ部分が壊れたケースもあると聞きました)
一方、通販工具のほうは、部品をネジで固定する原理を応用して、締め込んだネジが反作用でダイレクトにカップを押し出すため、フレームにも優しいし、この工具ですべて賄えるなら、叩き出したカップは本来再使用不可ですがもう一度使えるメリットもあるかもしれない。
さてさて、固着していてカップが抜けなかったらどうしようかと一抹の不安を抱えながらの作業でしたが、無事に外せてひと安心。
その後、コンバーターを圧入して作業は完了。すでにBBの交換を終えて、クランクもシマノに換えてお客様に納車が済んでおりますが、異音は解消したとのことで店長も胸を撫でおろしているところです。A様、いつもご利用ありがとうございます!