パーツ換装
PF30の圧入式BBシェルでシマノコンポを換装するときの必要工具はどれか?
ACRZ プレスフィットBBボトムブラケット リムーバー&インストレーション
商品名がやたら長い。誰かに口頭で伝えるのは難しそう。圧入BBを交換する時にフレームにダメージを与えず、しかも圧入しているカップも傷つけずに外せそうな工具はないものかと探しているときに、これは良さそうと目に付いたのがこの「ACRZ プレスフィットBBボトムブラケット リムーバー&インストレーション」という工具。
まず最初にこの着脱工具を見た時に一つ心配ごとがありました。カップを着脱するためには、外そうとする側のそのカップを覆って支持する治具をフレームに直接押し当てます。
その作業の時に、塗装が傷付かないかと心配だったんですが、結果的にまったく問題なかったです。(トップの写真、BBシェルの左側)
材質は削り出しのアルミ。見た目どおり切削加工の仕上げはよく、薄いけどアルマイトのコーティングもされているので大丈夫でした。使い続けていくうちに、アルマイトが擦れたり傷がついてきたら塗装面をマスキングする必要が出てくるかもしれないけど初回は特に問題なし。
ただし、自転車屋の作業頻度で長く使い続けられる工具ではないですね。使ってみた感想としては、あくまで一般ユーザー向けのセルフ用に販売している工具です。工具としてはアルミの硬度が低いかな。
気になった点は、BBの取り外しや取り付けをする際に、セットしたボルトを締め込んでいくと押し棒やリングの表面がボルトを回すごとに少しづつ削れること。ステンレスのワッシャーでも1枚付けていてくれたらよいのにと思ったが後の祭り。
とりあえず今のところは、圧入カップを取り出すのはこの工具が一番適していて、工具メーカーでは用意していないので出来るだけ大事に使っていきたいと思います。
今回はφ30mmクランクシャフトのBBで使ってますがφ24mmにも対応していました。シマノのプレスフィットBBでも作業できるのでひと安心。
これで、精神衛生上あまりよろしくない、カーボンフレームのBB脱着でも叩かずにすみそうです。叩き出し作業が原因かもしれないBBシェルのトラブルもあるようですね。これについてはまた機会があればそのうち…。
それではこの工具を使った作業の仕方など少しご紹介していきます。
コンバーターを装着する前のお試し作業
今回の作業はコンポーネントを換装するために、一度お買い上げ頂いたあとにまだ納車前だったバイクを、ワンランク上のシマノコンポにアップグレードしたいというご要望で行った作業です。
在庫のコンポに交換するため規格を調べ、対応するコンバーターを取り寄せて作業することになったわけですが、なにせ初めて使う工具、コンバーターを装着する前に、一度試してみようと中古フレームのBBで取り外しの作業だけテストすることにしました。
試そうと思ったフレームはスペシャライズドのターマック。装着されていたギアクランクはBB386で、ハンガーはスペシャが独自に作った規格「OSBB」。実測シェル幅が68mm、圧入ベアリングは外径42mmなのでOSBBに間違いないでしょう。
OSBBは、内径46mm/シェル幅61.5mmのハンガーにカップを圧入することでBB30と同じ規格となるBBのようです。なのでBB386のギアクランクが使えるのですね。
BB30と同じ規格だったらBB30のクランクでもよいのに、なぜBB386クランクにしたのかわかりませんが、9mmのサイドカバーを左右に付けて対応しています。
カーボンのクランクが付いているので、上位機種に装着するカーボンクランクで対応できるモデルがBB386のクランクしかなかったのかもしれません。
スペシャライズドの独自規格OSBBで判明したこと
本題から少し話が飛んで恐縮です。スペシャのOSBBについて考察してみようと思います。
アティックではスペシャライズドは取り扱っていないため、今回の作業で店長はじめて知ったんですが、OSBBはPF30のようにカップを入れていてもシェル内の構造は全く違うんですね。
カップ自体でベアリングを受けているわけではなく、フレームにダイレクトにベアリングを圧入させるBB30と同じでサークリップで止まっている。知らなかった。OSBBハンガーからクランクを抜くのは初めてだったので。
BB30はフレームに溝を切って、OSBBはカップに溝を切ってサークリップを嵌めているわけです。どうして、わざわざこんな仕様にしているのだろう?
理由はあるのでしょうが、取り扱いメーカーではないため何のためなのかはわかりません。
スペシャライズドのOSBBフレームにコンバーターを使う時の注意点
さらに不明な仕様が発覚し、結局、圧入カップを取り出すためのテストは実行できず。このフレームは圧入したカップを接着しているようで、取り外すことができなかった。
一応、試しに本当に接着されてるのかどうか、フレームの状態はかなり程度が悪いため、このバイクは部品取りに回すことにしてハンガーごとカップを金鋸で切って確認してみました。
カップが接着されていなければ、いくら嵌合がきつくてもこれで必ず外れます。では作業開始。
まずはベアリングを叩いて取り外す。使う工具はベアリングの規格が同じBB30のときに使っているパークツールのリムーバー。
ベアリングを外してから、サークリップも取り外したハンガーをギーコギーコと切ってはみたものの、カップはビクともしない。さらに切り進めるも一向に動く気配はない。
つばのところにマイナスドライバーを当てて叩いてみたけどこれも駄目だった。やっぱり外せない。完璧に接着されています。
昔聞いた話で、異音防止を目的に、スレッドレスのハンガーに圧入したスレッド式スリーブをエポキシ接着剤で固定する話は聞いたことがあります。しかし、メーカー車で最初から接着されているバイクは初めてでした。スペシャだけなのかな?
この接着フレームは、メーカーで行っているのか、オーナーが接着して使用していたかはわかりません。
いずれにしても、もしも、OSBBフレームでBBが外せないスペシャのバイクにシマノクランクを使いたいというときは、用意するコンバーターはOSBB用ではなく、カップが抜けないならBB30のコンバーターを用意することになりますね。
スペシャライズドのOSBBフレームに便利なコンバーター
作業前に事前に用意するなら、カップが抜けた時にも共用できるコンバーターがあれば便利です。カップ接着ではBB30用、非接着ではOSBB用として使うということで。
調べたら、神戸の卸やTRISPORTSさんで対応するコンバーターを扱っていました。これはPRAXIS WORKSの「コンバージョンBB OSBB」という商品。カラーの付け外しで対応できるコンバーターです。カラーを装着して使う時は、BBを一旦左右に分けてからワンの内側に装着させて使います。
BBのコンバーターを出しているサードパーティは数多くありますが、他のメーカーにもOSBB対応品があるかは不明です。PRAXIS WORKSはもちろんアティックでも扱えますから、もしスペシャをシマノ化したい場合はお声掛けください。
OSBBに装着されているカップが接着されているかどうかは、おそらくクランクを外してみないとわからないでしょうが接着でも非接着でも大丈夫。対応可能です。
ともあれ、今回は圧入カップを外すテストはできなかったけど、今後のためにまた一つ規格の仕様がわかったので、フレームは廃棄だが無駄にはならずめでたし。
PF30圧入式BBの取り外し方法
お待たせしました。作業の仕方についてご紹介します。少しポイントを絞って概略だけ書いていきます。前述の繰り返しがある点はご容赦を。
最初に取り外しの仕方について。理屈は簡単で、このページに載っているこの工具の装着写真を見れば大体わかるでしょう。気をつけることは一つだけかな。カップを押し出すフラップ(ゴムでつながっているパカッと半分に割れるやつ、シマノ名称ですがこう呼ぶことにします)の装着方法。順にご説明します。
ではまいりましょう。
どちらから外してもよいですが一般的には装着の逆順から行いますので、まずはじめに、外すほう(今回は反ドライブ側)の内側からフラップをカップの端にあて、ボルトを通した押し棒を入れてフラップを広げます。(↓がシェル内のイメージ)
この時にカップの嵌合が弱ければ(ですが…)、カップではなくベアリングにあてるとしっかりフラップをあてることができてカップごと取り外すことができます。イメージ写真はカップに掛かっている状態なので、押し棒を少し引くとフラップ内が狭くなりカップの中に入ってベアリングに引っ掛けることができます。
ただ、カップの嵌合が強いと、その状態ではベアリングだけが外れる可能性もあります。お好きなほうで試してみてください。ベアリングだけ外れた時はもう一度先ほどの手順でカップを外します。
今回は先回の二度手間を再現しないよう、フラップをもう少し広げてカップに直接掛かるようにしました。ただ、この場合は掛かる面積が少なくなるので慎重な作業が必要です。
次に、外すカップに被せる治具にボルトをねじ込みます(小見出し直下の写真参照)。先ほども挙げていますが、この工具は重要な部分の材質がアルミです。圧入カップを外す場合は嵌合の強さによってはアルミのネジ穴に強い負荷が掛かるため、最初にボルトにグリスを塗って使うのがポイント。
ドライブ側でレンチでボルトを回していくと、カップに被せている治具の中でカップが徐々に外れてきます。この時の外れる固さの感触はフレームの精度によってマチマチでしょう。外れる瞬間に治具がぐらついてフレームが傷つかないよう、片側の手でしっかり保持しておいてください。
同じ作業を反対側でも行い、もう片方も外します。
PF30フレームへのコンバーターの取り付け方法
概略とか言いながら、書いているうちにずいぶん長くなってますね。記事も予定していたボリュームよりも多くなって、規格についてもだんだんと混乱気味になっているかもしれませんので再確認。
今回のBB交換は圧入式のPF30フレームでの交換方法です。クランクをBB30→φ24mmクランクに交換するための作業です。
ちなみに、BB30はフレーム側の規格なので、クランク規格ではないんですが、PF30には一般的にはBB30対応のクランクを使うのでBB30クランクと書いています。クランクによくこのようにBB30のロゴが入っていますがこれはBB30規格のBBに対応するクランクという表示ですね。
さて、いよいよ最後の工程、カップ(とベアリング)の圧入に入ります。今回も使うのはトーケンBB。でもいつも使用しているニンジャではなく、今回使用するのは圧入工具で取り付けするトーケンの「TK-PF30PS」という商品。シマノφ24mmクランク専用品です。ただ圧入するだけなので作業はいたって簡単。
フレームにこのコンバーターをセットしたあとに、店長も最初はACRZの工具で取り付けようと思いましたが途中でやめました。なぜでしょうか?
材質がアルミなので、ボルトを締め込んでいくときに、外す時よりも抵抗が大きかったからです。ミシミシッという感触を感じるような気がして、実際にそういう音がしたわけではなくあくまで気ですが、思ったよりも嵌合が固くて強度不足を感じたのです。工具の品質的なものでしょう。
なので、店長はいつも使っているパークツールの工具に交換して作業しました。もちろんすべてのフレームが同じだとは思わないので、ハンガーの精度によってはスルスルッと抵抗なく入っていくこともあるのかもしれません。ACRZ工具を使う場合はこんな↓感じです。
この工具を使う場合は、BB圧入用リングにボルトを通す時にステンレスのワッシャーを1枚用意したほうがよいです。ボルトを回すごとにボルトの首下部分でこのリングが少しづつ削れるため、できるだけ工具をきれいに長く使いたい場合はワッシャーを入れてください。スプリングではなく平ワッシャー。
BB圧入用リングは3個付属しており、ベアリングの中に挿入させて保持する突起箇所に対応の数値が表記してあって両面使用できるようになっています。ロゴのあるほうがφ30が2つ、φ25が1つ。φ30の反対側はφ24とφ22、φ25の反対側はφ24です。
装着するベアリング内径にあった圧入用リングを使うわけですが、2つの対応サイズのリングのうちどちらかを選ぶ際は、反対側は少し傷付くのであまり使わないだろうと思うのを選んだほうがよいかもしれません。
以上、作業する時に意識しておいたほうがよいことを挙げてみました。
最後に、圧入式BBを装着する際は、異音を防ぐために必ずカップにグリスを塗布してから装着してください。必須です。これは固着防止のためにも。特にシマノのプレスフィットは固着するとかなり大変。
BBを交換するときによろしければ参考にしてみてください。