難題トラブルの修理
固着したシマノプレスフィットBBを取り外す最終手段
ロードバイクのトラブルで難易度が高い部類に入るのが圧入式のボトムブラケット(以下BB)。このブログでもBB関連の記事が多いですね。今回は固着するケースでもっとも多いシマノプレスフィットBBを外した方法について書いてみます。
イレギュラーな方法なので今回はあらかじめお客様に了解を取っての作業です。シマノプレスフィットの固着は多くのショップが抱えている共通の難題だと思いますが、もしも参考になさる場合は自己責任でお願いします。
なお、この作業は一般ユーザーは絶対にマネしないでください。BBシェルを傷付けると最悪バイクが使えなくなります。シマノプレスフィットの交換は最初からショップに相談されたほうが無難です。
ACRZのプレスフィット用リムーバーでは、シマノプレスフィットBBを外すことができるのか?
シマノプレスフィットは純正の工具を使った場合にどんな方法でも外れない場合はあきらめるしかないケースも多いと思います。店長も、脱着工具TL-BB13を当ててこれ以上叩いたらBBシェルが壊れるんじゃないかと思うほど叩いても外れない時がありました。これはもう仕方がない。度を過ぎた作業は控えたい。シェル内に剥離でも起きたら大変。無理は禁物です。
でも、今回ばかりはどうしてもBBを外さないといけない事情があった。このままではバイクが使えないから。お客様がご自分でケーブルを交換している最中に、BB裏に装着されていたケーブルライナーがフレームの中に入ってしまったとのこと。
それでバイクを持ち込まれたわけですが、ライナーがそういう状態ではまずは取り出さなければいけません。うちで販売したバイクでもあるし。
以前、こちらのBHでも使ったリムーバーに、シマノ用のフラップも付属していたので初めてこれを試してみることにしました。結果、外れたのはベアリングだけ。では作業を見ていきましょう。
BHでの作業から簡単に外れると思ったら存外に固い。付属のシマノ用フラップはフランジへの引っ掛かりが少なくてそこから外れてしまい、ベアリングだけが押し出されたようす。このリムーバーではシマノBBの場合はワンごと取り出すことはできないようです。(リムーバーやフラップって何?という方は先ほどのリンク参照)
かなり固かったから期待したけど、リムーバーを外したら中に入っていたのはベアリングだけだった。残念。このフラップは今後使うことはもうないでしょう。
で、残ったワンの中のフランジに切れ込みを入れて、フランジを壊してから嵌合を緩くして外すことにしました。
この作業で一番気をつけないといけないのがフランジに切れ込みを入れる時です。最初だけベアリングが圧入される部分に傷が入っていますが2か所目からは金鋸を傾けないよう慎重に作業しました。
シマノプレスフィットBBカップのつばの厚みは実測2.5mm、フランジの切れ込みがカップの内側から2.5mmを過ぎるとフレームに到達してしまう。そうなったらアウト。
フランジを壊してドライブ側から、一般車用に用意している先端を加工したドライバーでカップ全体を均等に叩いて取り出します。少しづつ、少しづつ。
ようやくワンが取り外せた。ハンガーシェルの中にケーブルライナーが見えます。
これはチェーンスティの裏側にケーブルを外に出すために空いている穴があって、その穴からチェーンスティの中に落ちたライナーがハンガー側に移動したもよう。
ということは、このバイクはエンド側のアウターカップは取り外せないようなので、ライナーが自由に動くということはケーブル装着の時におそらくまた別の問題が・・・。
ドライブ側のBB脱着は別の方法で試してみる
ACRZのプレスフィットBBボトムブラケットリムーバーは、シマノプレスフィットでは使えないことがわかったので、ドライブ側のBB脱着は以下の方法で行うことにしました。
まずは一応、シマノの脱着工具TL-BB13を使ってセオリー通りに叩いてみるもやはりというかまったく外れる気配なし。
では、別の方法で。ドライブ側はベアリングのカップを外すことから始める。まずプラ製カップに切り込みをいれてベアリングとの嵌合を緩くします。
嵌合が緩くなったカップをベアリングから外します。ここまでは比較的簡単。
カップを外したら、ベアリングの内側のフランジをドライバーで叩いて壊す。反ドライブ側と同じ作業で、叩いている感覚はまるで木材をノミで打っているような感じ。
これはプラスチックのフランジを取ってベアリングをTL-BB13でダイレクトに叩いて打ち出す作戦です。ベアリングが圧入されていると、反ドライブ側のようにフランジ箇所を削り取っただけでは、ワンを直接叩いても絶対外れないのでベアリング直撃作戦を取ります。成功するか、ちょっとドキドキ。
念のためですが、くれぐれもドライバーがフレームに当たらないよう叩く作業は慎重に。フランジの出っ張りを少しづつ削ぎ取るような微妙な力加減で作業を進めます。
ちなみに、シマノプレスフィットは他の圧入BBと違い、ベアリングをフランジが覆っているので構造がわかりにくいかもしれません。新品を装着する時はどういう構造になっているかとかは確認しないので、店長も壊す作業をするまでは、ワンはベアリングが圧入されるカップにフランジを内側から圧入して別体構造になっているのだと思っていました。
違ったんですね。新品BBを内側から見るとそのようにも見えます。だから店長も勘違いしていたわけですね。外側のカップと手前に出っ張っている部分までのフランジは一体構造です。
なので、グリスが付いているところがベアリングですが、そこが完全にむき出しになるようにベアリングを覆っている部分を壊します。壊すのはフランジのつばからグリスのところまで3mmくらい。これをつばのきわのところまでできるだけきれいに削って全部剥ぎ取ります。
反ドライブ側の作業で、最初、別体構造だったらフランジだけぽろっと取れるかと思ったら、一体なのでそう簡単にはいかなかったですね。よく考えたらこのフランジ部分がベアリングを直接受ける役目を担ってるので別体構造のはずがありません。一体じゃなかったらベアリングがしっかり固定されず、ギアクランクのガタツキにもつながります。
フランジを全部壊して最大難所はクリヤー。でも一般車用に用意している先端を薄く加工したドライバーは、ベアリングに当たっていた部分が変形してしまいました。薄くなっているとはいえドライバーが変形するとは、それだけワンの中でのベアリングの嵌合がいかに強いかということですね。それだけシマノプレスフィットは頑強な作りだという証し。(でもドライバーが・・orz)
フランジを壊したら、いよいよTL-BB13をベアリングに当てて叩き出します。さらにドキドキ。
数回叩いてもまるで反応がない。あきらめずハンマーで打ち続けることさらに数回後、ようやくベアリングが動いた。「よっしゃ~!!」。 1回ごとにベアリングの状態を確認しながらの叩き出しでしたが、動いた時も叩いた瞬間ベアリングが動いたという感覚はなく、そのまま続けていたらかなりの勢いで外に吹っ飛んでいたでしょう。一応、吹っ飛んでもいいようにビニール袋で受けるようにはしています。
こんな感じでベアリングが外れてひと安心。
最後はワンの取り外し。作業に入る前に思い付いたことがあってドライブ側はそれを試してみる。
径の太さからこれがよさそうだとBBのタッピングツールを利用しました。これは初代のBBツールでもう使っていないけど、重いし何かに使えるのではないかと取っておいたものです。使用している鉄ハンマーと同じくこの重量なら打撃力も期待できそう。こんな時のぴったりアイテム。
ちなみに、もしもプラハンマーをお使いの場合ですが、プラハンマーだと打撃が弱いので、フレームには優しいですが今回のような固着したケースでは、大きいプラハンマーでも材質的な衝撃力から外すのは難しいかも。
さて、フレームに傷が付かないようウエスで保護してハンマーで叩き出す。最初はビクともしない。ドライブ側はフランジのつばの部分が壊れていないので、反ドライブ側よりも嵌合が強いようです。
ベアリングの時と同様に、数回叩いてようやく動きました。こちらはプラ製のためか動く時はワンから離れる感触があった。あとはワンを押さえながら慎重に叩いて取り外すだけ。
トップ画像でわかるように、固着の原因はやっぱりアルミの腐食からきているようです。これはステムやシートポストと同じ現象。シマノは推奨しませんが圧入式のBBにはこれからもグリスが必須だと思われる今回のBBトラブルでした。
実は今回のトラブルはこれだけでは終わりません。先ほど、反ドライブ側のBB脱着後に「別の問題」といったのはケーブルの装着に関してですが、続きはまた次回に…。これがまた大変だったんです。