難題トラブルの修理
ケーブル内臓式フレームのケーブル交換で、チェーンスティのアウター受けが外れない場合の対処法
前回の続きです。固着したプレスフィットBBは無事に解決できましたがさらに難題発生。今回はその対処方法を共有していきたいと思います。難題とは内臓式フレームのケーブル交換。
これまでも何度かケーブル内臓式フレームで困難な作業を経験しています。このブログでも何度か取り上げていますね。Googleからの検索でもBB固着と同じくらい訪問数が多く、ケーブルを内装させる作業は多くの人が関心を寄せている作業なのだと思います。
これまでもその都度知恵を絞って困難な状況を解決してきました。しかし、今回は今までの方法が全部駄目だったのでまた別の方法を考えました。これはケーブル内装フレームで困った時にきっと役に立つはず。
エンドのシフトアウター受けが固着して通常ではケーブル交換ができない場合の対応方法
内臓式フレームのケーブル交換で困難な場面に出くわすのはおもにシフトのほうです。ブレーキのほうはほとんど問題ないと思いますが、フレームの形状などで何度か手こずった経験があるので、ブレーキケーブルも内装の仕方によっては油断できません。
今回問題が発生したのはシフトのケーブル交換。いくつかの方法を試してみました。最終的には交換できましたが、まず初めに行ったのは、ブレーキケーブル交換の時にも使用する方法。
今回の作業がなぜ難題だったのか、もともとエンドのシフトアウター受けが外れれば何も問題ありません。通常はポロっと簡単に外れるカップが摘まんでも取れず、マイナスドライバーを根元に当てて抜こうとしても駄目でした。なので、珍しいケースですが最初は接着されていると思いました。
しかし、一応、代理店に確認すると接着はされていないとのこと。そうですよね、どう考えてもここを接着してしまうと、FDでシェル内をパイプでリードしているケースのように、チェーンスティの中をパイプでも通さない限りはケーブル交換はできなくなってしまいます。もちろんパイプは通っていません。
そうすると、固着はBBと同じくアルミの腐食が原因か。となるとプライヤーで挟んで取るか、ドライバーを根元に突っ込んで抉り取るしかありません。もちろんキズが付くのでそれは最終手段までとっておいて、今回は別の方法を採用。さっそく見ていきましょう。
イレギュラーなケーブルライナーの使い方
イレギュラーな使い方ですが、まずアウター受けの穴に、いつも使っているケーブルライナーが通るか試してみる。これが通ればカップが外れなくても作業は簡単です。BB装着状態では無理ですが、今回はBBを外しているのでアウター受けさえ通過すればあとはBB側からケーブルをリードできます。結果は×。ケーブルライナーは実測2.4mm、アウター受けの穴はもっと細くて微妙なところで通らない。強く押しても駄目、まったく入っていかない。
そして、一応、パークツールから出ている内装式フレームで使用するインターナルケーブルルーティングキットも試してみました。でも、エンドの形状から最初から駄目だと思っていたとおり、やっぱりやる意味がなかった。このツールを内装式のチェーンスティで使うときはアウター受けが外れることが前提で、外れるならそもそもここでは使う必要もない工具ですが…。
次は、一番期待を寄せていた「掃除機吸出し作戦」。何のことかとお思いでしょう。先ほども述べていたブレーキケーブル交換で手こずった作業で唯一使った方法です。
秘策その1、掃除機吸出し作戦
チェーンスティに糸を通してインナーを通せるか試します。これはBB側からケーブルライナーを入れて、その中にインナーケーブルにテープで固定した糸を通し、糸の先端を出したライナーをエンドの止まるところまで移動させて糸を掃除機で吸い出そうというもの。なぜ、フレームの中に糸を通す必要があるのか? 理由はのちほど。
作業の仕方です。糸をテープで固定したインナーケーブルをケーブルライナーに通したらテープを剥がしてインナーを抜きます。インナーを抜かないと抵抗になってしまい糸がスルスル動かないから。
糸を少しライナーから外に出した状態で、BB側からチェーンスティに入れます。
ブレーキの時のようにアウター受けから糸が出てくると期待しつつ掃除機で吸い出してみるも、まったく糸が出てくる気配はない。アウター受けの穴が細すぎてブレーキの時のようにはうまくいかないようす。
それではと、吸引力を高めるためにホースの先端を細工してみる。ブレーキケーブルに使う3mmのライナーを切ってテープで固定します。
アウター受けは2.4mm以下の穴なので、3mmの太さで先っちょを穴に密着させたら吸引力が強くなってきっとうまくいくはずだとさっそくトライ。しかし、残念。掃除機はゴーゴー唸りを上げて頑張ってくれてはいるがこれも駄目だった。また別の作戦を考えよう。
秘策その2、バイクを逆さにしてエンド側からケーブルを通してみる
まずはテスト。さっきやろうとしていたことは、最初にチェーンスティの中へリード用のインナーケーブルを通すこと。そのためにまず糸を通す必要があるわけです。糸が通ったらライナーを抜いて、糸の先にリードのインナーケーブルをテープで貼って、そのリードがBB側に出てきたら、同じ方法でレバーを通したインナーケーブルに糸をテープで繋いでそのまま引き出せば装着できるはずです。
でも、掃除機吸出し作戦は失敗したので、今度はエンドのほうからBB側に入れてみることにしました。
正立状態では、エンド側から入れてもダイレクトマウントの台座部分に引っ掛かって駄目だったから、BBから入れて掃除機で糸を吸い出そうとしたわけですが、逆さにしたらダイレクトマウントの箇所には引っ掛からないのではとバイクをひっくり返して試してみることにする。
予想どおりハンガーシェルにワイヤーが出てきた。掃除機吸出し失敗は、途中の作業が省かれたから怪我の功名のような感じ。ただしリードとして通すワイヤーは、1.2mmのシフト用では、エポキシの接着箇所にぶつかった時にしなって駄目だったので、太い1.6mmのブレーキ用を使っています。
で、シェルに出てきたリードの1.6mmワイヤーに糸をテープで貼り付けて、その糸の反対側をもう1本のワイヤーに貼り付けそのままエンドの外側に出せるかテストします。テストのワイヤーは、材質が1.6mmと同じくステンレスのシフト用1.2mm。
1回目はテープを巻きすぎて太くて失敗。この太さではアウター受けの穴が通らずワイヤーがすっぽ抜けた。それでも糸のほうはテープにしっかり貼り付いているので粘着性は問題なし。
2回目はテープ一巻きにして成功。リードのワイヤーが通ることが確認できてまずはひと安心。糸だとセロテープでもワイヤーにしっかりくっついていますね。
しかし、最初からこんな面倒なテストなどせずに、なぜこの方法でケーブルを装着しないのかという声も聞こえてきそうです。おっしゃるとおり。
この方法が使えるのはステンレスのワイヤーのみです。装着インナーはポリマーコーティング、交換予定の用意していたデュラのケーブルセットも同じポリマーコーティング。テストしてから作業しようと思ったわけです。案の定、コーティングされているポリマーにはテープがくっつかず、デュラのインナーでは使えない方法です。交換するインナーはステンレスに換えました。
もうひとつ、糸を介さず直接インナー同士をテープで貼れば簡単なのにと思うかもしれません。そうですね。でもそれは、素材が固いもの同士なのでテープ一巻きでは外れやすい気がしたし、ましてや1.6mmと1.2mmでは段差ができて1.2mmのほうにテープが密着せず絶対駄目だろうと思いました。この方法がベストかと。
いよいよ本番作業
テストで成功したので、古いシフトワイヤーを抜いてレバーにステンレスの新しいワイヤーを通していよいよ本番です。
以下、本番での作業方法。フレーム内で失敗を再現したくないからテストの時よりも慎重に。
まず、エンド側からリードする1.6mmに貼り付けている糸の反対側にレバーからのワイヤーをテープで貼り付ける。ワイヤーにはテープは一周だけ巻くから剥がれないようにテープの端に糸をくっつけてしっかり巻く。
シフトワイヤーはBBシェル外側のケーブルガイドを通ってチェーンスティの中を通るので、シェル内にある糸にテープを巻くため一旦そのシフトワイヤーをシェル内に入れてから、テープを巻き終わったらまたシェルの外に戻し、リードの1.6mmワイヤーを引っぱってエンドの外側に糸が出たら、その糸をゆっくりと慎重にそのまま引っぱる。
本番は失敗できないので、テストで失敗した時のようにシフトワイヤーに巻いたテープが太すぎないか通す前に一応確認します。エンドのアウターカップはおそらく1.9mm以内だと通ると思うが念のためノギスで計測。テープを巻いてもブレーキワイヤーと同じ1.6mmなのでこれで大丈夫。ついでにできるだけ丸くなるように平べったい箇所をつぶして丸く整えます。
大事なことを忘れていた。カレラに装着されていたビニールチューブに最初に通してからシフトワイヤーにリードの糸を巻かないと、ビニールチューブは装着できなくなってしまう。一旦テープを剥がしてチューブを通してから巻きなおす。チェーンスティ側のビニールチューブはライナーの役割はしていないので、チェーンスティ内でワイヤー(とフレーム)を保護する目的で付いているのだろう。
ケーブルガイドも確認。ガイドに、BBシェルにネジ止めする形式と同じブリッジが付いていたら、ガイドにもワイヤーを通しておかないといけないが、リア側は溝だけだからケーブルガイドはフロントワイヤーを装着する時に一緒に付ける。
さて一番慎重を期す作業。チェーンスティの中に本番ワイヤーを通します。ゆっくりゆっくり、リードの糸を引っ張っていきます。と、ビニールチューブが3mmの太さのためエンド側のカーブしている箇所でつっかえてしまった。
まずい、このまま糸を引っぱるだけでは糸がテープから抜ける可能性が高いので、シフトワイヤーを押しながら、微妙な力加減で糸をリードしながら通そうとして何度か繰り返すもつっかえて通らない。チューブを装着した状態では通らないかとあきらめかけた瞬間、おお~っ、微妙な力加減が功を奏してスルっと通った。感激!
ダウンチューブのシフトアウター受けにインナーケーブルを挿入する時の注意点
記事の流れから説明が前後していますが、今回のようにダウンチューブの中でライナー兼用のチューブにインナーケーブルを挿入する時に注意しておくことを挙げておきます。
これはアウター受けのカップが取り外しタイプの場合ですが、アウター受けがフレームに直付けされている場合はフレームの中は見えないし、ライナーも通っていないので気にする必要はありません。
このチューブがビニール製の場合は弾力性があるため、古いインナーを抜いたあとフレーム内に落ちやすいため注意したほうがよいようです。ポイントは、BB出口で先端を確保できる分だけ出してから挿入口側をテープで固定しておくこと。
店長も、新しいインナーをレバーに装着する際に古いインナーを最初に抜いていたため、レバーにインナーを装着している最中、ビニールチューブがフレーム内に落ちてしまいました。
こういう時に役立つのが特製ツールです。BB側からインナーを入れて先端をこのツールですくい上げて無事解決できましたが、こうならないように、古いインナーをハンドル側の途中で切ってチューブ内にインナーが残った状態で確保しておき、レバーに新しいインナーを装着後アウターを通し終えるまでは古いインナーは抜かないほうがよいですね。
もう一点気をつけたほうがよいのが、バイクトラブルで解決が難しいケースにもつながりかねないネジの固着。インナーを通し終えたら、アウターを受けるカップを装着する前に、ネジにグリスを塗っておきます。カップは外れやすいケースもあるので、すぐにネジ止めできるように装着後ではなく装着前です。
今回は外す時に固くてネジ穴がなめりそうだったから左右ともネジすべり止め液を付けて外しましたが、ネジにはグリスが付いていないと固着の原因になります。小さいネジは特に注意しましょう。
シフトのアウター受けを通せるケーブルライナーを用意
BBを外した時からこれは時間が掛かるなと思っていたら、日中の作業だったから何度も中断になって本当に数日掛かりの作業でした。
で、今回の作業を受けて、今後ケーブル交換のご依頼で、今回と同じようにアウター受けが外せないケースに備えてもっと細いライナーを用意しておくことにしました。お客様の心配も最小限にしてできるだけ早く作業を終わらせるためです。
自転車用の仕入れ商品にはなかったため検索で探した結果、これがよさそうだと思ったのがPC用のPTFEチューブ、外径が実測1.9mmです。
1.9mmならアウター受けの穴も通るはず。このチューブは1.2mm径のインナーケーブルがギリギリ通る内径だったので、これ以上細いチューブは使えず、もしも1.9mmのライナーでも通らなければ今回と同じ作業になってしまいますね。
このチューブが使えれば、インナーさえ抜いていなければBBが装着された状態でもそれほど時間も掛からず交換ができると思います。もちろんその場合はポリマーコーティングのインナーケーブルでも大丈夫(条件付きで)。
ただ、ひとつ心配なのが、いつも使っているケーブルライナーよりも素材が柔らかいこと。通販で送られてきた封筒を開封したらチューブが途中で数ヵ所潰れていて、そこは丸く戻らず使えないようだからカット。5mの長さからシフトのインナーケーブル2m分を2本確保し、素材がつぶれやすいことから中にケーブルを入れて、できるだけ丸めないように保管しておくことにしました。
なので、ケーブル交換の時にライナーとしてインナーに挿入させた時に、この柔らかさが途中でつっかえてしまわないかそこが気がかりです。これは実際にケーブルを交換するときに確認するしかないですね。新品インナーだったらケーブルライナーにシリコンの潤滑剤を注して滑りをよくしておけば大丈夫だとは思うのですが・・・。
先ほどの、このライナーを使ってポリマーコーティングのインナー交換をする時の条件とは、ポリマーが途中で剥がれていないことが条件です。ポリマーコーティングは毛羽立ちやすいので場合によってはこのライナーでは通すことができないかもしれません。
途中でこういうふうにコーティングが剥がれていたら、この方法は使えません。シマノは、定期的にケーブル交換することを前提に、ポリマーコーティングのインナーを製造しているのかもしれませんが、半分くらいの価格のオプティスリックだとこういう心配はないですね。
ただし、インナーケーブルの切断でもっとも多いレバーのユニット入り口での折損にはポリマーコーティングのほうが耐久性が高く、どちらも一長一短。トラブル防止のためには、定期交換のサイクルを2年くらいを目安に行っていれば心配ないと思います。