自転車修理
フロントフォークのカーボンコラムと、リアハブのフランジに生じていた亀裂
下取りと買取りで発見したロードバイクのアクシデント2件。1つめはカーボンコラムの亀裂。レース参加など激しい使い方をする場合は今後の使用に悪影響を及ぼしかねません。発見できててよかった。
カーボン製品を取り扱う時に、一番気をつけなければならないのは固定ボルトの締め過ぎですが、フォークコラムに亀裂が入っていた今回のケースはちょっと違います。
今回はハンドルやシートポストで多く見られる単純な締め過ぎではなく、ステムをセットする時の装着の仕方に問題がありました。
運良く発見することができたフォークコラムの亀裂
外からは見えないフォークコラム先端に、なぜ亀裂を発見できたのか。もちろんトップキャップを外さなければ、その亀裂を知る術はありません。トップキャップを外したのはステムを交換したから。
では、中古バイクとはいえ完成車の販売なのに、なぜ、ステムを交換しなければならなかったのか?
今回は、お買い上げバイクと下取りバイクの、バイクのサイズ(トップホリゾンタルサイズ)とステム長を合わせた寸法がまったく同じで、最初はお買い上げ頂いたバイクもサイズ的に違和感がないのではないかと思ってました。
でも、ローラー台にセットしてポジション合わせをしている時に、あきらかにハンドルが遠い状態に見受けられます。お客様も普段はハンドルのショルダー付近を持って乗っているとのこと。これは、これまで乗っていたバイクのフレームサイズが合っていないためですね。
お客様は身長168cm。下取りバイクはトップチューブがホリゾンタル537mmで、ステム長が90mm。確かに、よほど手が長くない方でなければこれではハンドルが遠く感じるはずです。お買い上げバイクはトップチューブが527mm、ステム長100mmで合算した寸法はピッタリ同じ。ポジション合わせの時に、これはステムを10mm短い元のステムに換えたら大丈夫だろうと交換したわけです。
案の定、ポジションは改善しました。と、同時に、コラムの亀裂を発見してびっくり仰天。でも、ある意味、救われました。知らずにこのまま販売していたら、亀裂がどんどん進むとハンドリングへの影響も考えられるから。
カーボンコラムに亀裂が入った原因
では、なぜこのカーボンコラムに亀裂が入ったのでしょうか。通常どおりのセッティングであれば亀裂が入るなどまず考えられません。上の写真が通常どおりのセッティング。ステムはハンドルとフレームをつなぐ重要部品ですが、カーボン製品の場合、ハンドル側は締め過ぎに注意しないといけないけれども、フォークコラムのほうはこの状態で締め過ぎて亀裂が入るのはまれでしょう。
これまでも、カーボンハンドルでクランプにクラックが入っているケースは何度かありましたが、コラムのクラックは、上の写真のようにセッティングされているバイクでは見たことがありません。
ポジション合わせの時に、ステムを交換する前に写真を撮っておけばよかった。その時の元のステムがどのように装着されていたか、写真を見れば説明の必要もなく一目瞭然。お客さんにはこんな状態ですと説明はしていたけど作業中だったから写真までは気が回らなかった。
小樽で購入したというこのバイクには、ステム上のトップキャップの下にスペーサーが装着されておらず、アルミコラムと同じ方法で取り付けられていました。カーボンコラムとしては通常ではないセッティング。
本来は上の写真のように、カーボンコラムには、コラムの先端にクラックが入らないようステムの上にスペーサーを装着しなければいけません。このように装着すれば適正トルクだったら亀裂は入りません。亀裂が入ったのは、コラムをカットする時にアルミコラムと同じ寸法でカットしたから。
埋め込むアンカーの構造によって変わるカーボンコラムへのステム装着方法
カーボンコラムにクラックが入った箇所は上端から実測15mmまで。装着されていたステムも、写真のものと同じ形状で上端から上側の固定ボルトを締め付ける箇所まで約15mm。装着跡で判断できますね。この形状のステムをアルミコラムのようにスペーサーも入れずに装着していたため、ステムの割りの箇所で応力が集中し、コラムの先端からひびが入りここまで進行したというわけです。
しかも、アンカープラグは、トップ写真に写っているとおり装着位置を自由に移動できるタイプ。アンカーのトップキャップは底の形状が出っ張っている凸型でプラグに当たらないよう深めに装着されていたこともあって、コラムの先端部分がさらに強度が低くなっていたのでしょう。悪い条件が重なったのだと思う。そして、ステムの固定ボルト2ヶ所の形状も関係あると思う。
カーボンコラムでも、コラム先端にアルミのつばで止まるようなアンカープラグの場合は、プラグで中からコラムを補強する形になるので一応この方法でもよいけれども、万一ステムを上げる時のことも考えて、コラムを短くカットしないように、やっぱり通常どおりアヘッドステムにはトップキャップの下に10mmのスペーサーを1個装着する仕様にしたい。5mmではトップキャップの底が当たって使えないこともあるので最初から10mmを推奨。
ちなみに、ステムの上下固定ボルトの間がカットされていないステムは、仮に締め過ぎても構造的にクラックが入りにくいメリットがあるかもしれない。個人的にはコラムが外から見えないこういう作りのほうがステム自体の強度も高いように思います。
サーヴェロのカーボンコラムで亀裂対策する場合について
サーヴェロのように、カーボンフォークでもコラムに金属(かアルミ)のスリーブを入れてエポキシで固定しているケースもありますね。ステムを装着する時の固定方法は、プラグではなく、カーボンコラムでもスターナットの埋め込みです。
サーヴェロがこの方法を取り始めたのはずいぶん前ですが、経緯は知りませんがすべてのカーボンコラムに導入しようとリコール情報を出し、お客様がお持ちになったら対応してくださいと、作業料金も明示して案内していました。カーボンコラムにクラックが入った場合に事の重大さを考慮してリコールを出したものと思われます。
アティックでも1件他店購入バイクのお持ち込みがあって、送られてきたエポキシ樹脂の接着剤で対応したことがありましたが、お客様にとってもこのリコールはすごく安心できますね。
でも、もしもハンドルを下げたいという時に、コラムカットのご要望があった場合は一抹の不安もあったりします。スターナットはさらに打ち込めばよいけど、スリーブは接着されているとはいえ、上端がつばのようにカーブ状に広がってコラム内に入っていかない形状のため、途中で切ったあとの固定はどうなるのかな、という不安が…。そもそもスリーブの材質もわからないため切れるかどうかもわからないし。
なので、このケースではハンドルの高さ調整はスペーサーの上下入れ替えで対応することになるかと思います。ステムの下にスペーサーがなければ、ダストキャップ(ヘッドキャップやダストカバーとも)が厚ければ薄いものに換えるか、もしも装着キャップが薄ければ、そのステムを使い続ける場合は対応策はないかもしれない。まさかダストキャップを外して走ることもできないし。
サーヴェロはここ数年は取扱いがなく、5年前の注文でも同じ方法だったのでその後もたぶん変わっていないと思いますが、うちで注文したフレームも含めてサーヴェロのコラムカットはまだ1件も依頼がありません。今後も、サーヴェロだけはハンドルの高さ調整でコラムをカットしてほしいとお持ち込み頂いても、カット後どうなるかわからないのでお受けできないと思います。
今回は、15mmのクラック個所はカットして、5mmスペーサー3個を外しただけでフォークはそのまま使用できるので事なきを得ました。ハンドル位置はこれまでよりも15mm低くなるので、もしもお買い上げの方がこの位置で低く感じる場合、そこはステムを天返しにしたり、場合によってはさらにライズ角の違うステムに交換などして対応する予定。
ROLF VECTOR PRO のひび割れ
2度あることは、3度ある!?…。 やっぱり格言は正しかった。
1度目はこちらのデローザ出張買取り事故。2度目は先日のホイール買取りで。26インチのカーボンバイクと一緒に買取りした26インチホイールでしたが、だいたいブログに明かすトラブルは買取り後に気付くケースが多いです。
この時もクラックを見た時は愕然としました。それはそうでしょう。間違ってもこのままでは使い物になりません。なんで査定でこんなでっかい割れを見逃したんでしょうね。反省しきり。
ホイールの買取りでは必ず振れを確認してますが、このホイールはけっこう横振れが出てました。まあ調整範囲内だろうと単純に考えていたのがそもそも失敗の元。
先日も言ったばかりだけども、同じ轍は踏まないように、査定にはしっかりじっくり具に確認してあたるようにしよう。
ちなみに、先週末に行ってきた出張2件の内1件も横振れがひどくて、そのホイールはスポーク2本に歪みがありました。走行中に何かが引っ掛かったのでしょう。ママチャリの修理でもよく見掛けます。落車でもしていない限り、通常よりも振れ幅が大きいという時は、その振れには振れが生じてしまった何らかの要因があるわけですね。
ROLF VECTOR PRO のフランジが破断した
結局、このホイールはフランジが破断してボディから完全に剥がれ落ちてしまった。処分しないでそのまま放置していた2ヶ月後の本日、気が付いたらこのようになっていました。こんなこともあるんですね。
これを見ると、あらためてスポークの張力は凄いんだなと思わされます。スポークが亀裂のところを境に引っ張り続けて亀裂が入っていないところをもぎ取っています。あら~。
前のオーナーがどのくらいの期間この状態で保管していたかは不明ですが、もしもこの状態で乗り続けていたら重大事故の可能性もあったわけで、そう考えると恐いですね。
ハブのフランジに亀裂が入るのはやっぱり尋常なことではないので、見つけたらすぐに使用を中止して、残念ですが、そのホイールは廃棄処分しましょう。
ホイールに限らず、バイクに装着されているパーツのクラックは、メンテナンスや、整備点検の時にも確認して日頃から気をつけておきたいものです。特にカーボンパーツは要注意。十分ご注意ください。
チェーンが破断することも
そういえば、チェーンも切れることがありますが、通常はプレートが外れる状態をチェーン切れと呼ぶけれども、そうではなくサビや劣化で破断してしまうこともあるのです。特に注油しないまま使用し続けると、素材の損傷が進み、場合によっては写真のようにピンのところでプレートが真っ二つに割れます。
最初はクラックが入ってそのあと折損するのでしょうが、立ち漕ぎとかガシガシ踏んでる走行中に切れたら滅茶苦茶怖い。いきなり踏む力がなくなったらバランスを崩して落車するかもしれません。
ロードバイクではチェーンメンテナンスは基本中の基本ですが、ぜひチェーンもこまめにメンテナンスしてあげて、そして伸びてきたら定期的に交換しながら安全走行を心掛けてください。