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エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

2022年11月21日

難題トラブルの修理

エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

スペシャライズドのエアロ型ロードバイクに「Allez Sprint Comp」というモデルがあります。アルミバイクでカーボンさながらの軽量バイクですがフレームの作りが些と特殊、「ダルージオスマートウェルド」という製法で成形されているバイクです。

今回買取したバイクの中にこのモデルがありました。Allez Sprintはこれまで何台も買取りしてましたがフレームの形状は年式によって変わるようで、エアロフレームは今回が初めて。この製法のために今回はとんでもない作業時間を費やすことになるとは、買取の時には夢にも思わなかった。

ダルージオスマートウェルド製法とは

英字で略してDSWとも言われるこの製法は、アルミフレームのパイプを溶接する時に、パイプ同士の端面を直接つないで溶接する方法。

溶接個所はラグもしくはアルミで一般的なパイプをざぐってラグレスにするのではなく、ハイドロフォーミングで成型されたパイプで溶接するチューブ端の接合部表面を薄く軽く仕上げ、接合部を最も応力の掛かる部分から遠ざけて溶接するのが特徴です。溶接した箇所は盛り上がっているのでこの製法だとすぐにわかります。

このDSW製法によりアルミバイクとは思えない造形で、他のメーカーには類を見ないエアロバイクが誕生したわけですが、しかし、この製法によって、内装仕様のフレームに他とは異なる加工をせざるを得なくなったようです。これがトラブルの発端。

DSW製法によってもたらされる弊害

エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

トラブルはワイヤー交換の時に起きました。シフトケーブルのルーティングは、通常はハンガーシェルにケーブルガイドを装着します。内装式でも外装式でも。内装式アルミフレームでは、ダウンチューブに内装されたインナーケーブルは、一般的にはハンガー近くかハンガー箇所に設けられた空洞から出てきてケーブルガイドを介し、リア側は、ハンガーからさらにチェーンスティの中で内装か、もしくは外に出したまま外装へと変わる仕様です。

カーボンフレームの場合はシェル内の構造でアルミとは仕様が異なるケースも多くありますが、アルミフレームは大体こんな感じ。

でも同じアルミフレームでも、DSWのフレームにはケーブルガイドがなく、ダウンチューブに直接アウター用の穴を空けてワイヤーを受ける仕様になっている。なので、ハンガー周りはケーブルガイドにインナーを通すのではなくアウターワイヤーでルーティングしています。

もちろん通常はこの仕様で何も問題ありません。しかし、おそらくはメーカーも想定していない現象が発生すると、この仕様は大問題を引き起こします。今回がまさにそう。その問題を引き起こした原因はアルミの腐食。腐食がどうして起こるか一概には言えませんが、アルミの腐食は他のトラブルの原因にも多く見られ、例えばこんな現象が。次で。

トラブルを続発させたアルミの腐食

エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

ノーメンテナンスで何年も乗り続けていたり、まったく乗らずに保管されていたバイクによく見られるアルミの腐食は実に様々なトラブルを誘発します。一番多いのがフレームに挿入されている部品の固着。ハンドルではクイルステムによくありました。クイル式時代はスチールフレームが多かったので錆も要因になっていたと思います。アヘッドが主流になってからはめったに見なくなったものの、コラムが固着してフォークが抜けなくなるケースもあります。

コラムを抜く時に少しくらい固い程度なら通常はプラハンマーで叩けば外れますが、こちらのケースでは、ヘッドセットのコラムスペーサーが腐食で固まってしまったようで、でっかい鉄ハンマーで叩いても抜くことができなかった。こうなると、この形状はインテグラルだから無理するとベアリングやフレームを傷つけるのでこのまま使い続けるか、無理を承知で強硬するしか手がありません。

他には、シートポストが固着して抜けないケースもこれまで数多く経験しています。サドルの高さは一度決まってしまうと動かさないので、対策は1年に一回とか動かしてあげること。

このように様々なトラブルを引き起こすアルミの腐食、防止するためには普段から定期的にバイクをメンテナンスしておくしか方法はありません。

アルミの腐食で起こった今回のトラブル、保管場所が車庫で長い間乗らなかったようですが、湿度が原因なのか不幸にもシフトケーブルに起こってしまいました。アウターキャップが固着して抜けないのです。ラジオペンチで掴んで抜こうとしたら途中で切れてしまった。切れたリア側は一旦は諦めました。

エアロロードバイクで固着したシフトケーブルの交換にトライ

エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

シフトケーブル交換でアウターキャップが抜けないなんて初めてです。抜く時に抵抗が大きいことはあるけど記憶にある限りこんな経験はない。キャップが切れるなんて想定外の出来事でした。

その後、フロント側はどうにか抜けたが、固着の原因はやっぱりアルミの腐食。キャップの根元が白っぽくなって腐食の跡がある。この根元が腐食でくっ付いていたことと、そしてキャップの先に延びているノーズが曲がっていたことも抜く時の抵抗に加担していたもよう。根元が少し潰れている。

フロントは外すことが出来たものの、リア側はどんなに頑張ってもビニール製のアウターキャップは力を加えるたびにただ千切れるだけ。最初はリアから作業を始めてこういう状態だったので、キャップがフレームに接着されているのかと思いました。なんせシフトのビニールキャップが抜けないなんて初めてだったから。

スペシャライズドにDSWフレームについて聞いてみた

エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

アウターキャップがもしやフレームに接着されているのかと思ったのは、この仕様でワイヤー交換したことはないのでそう勘ぐったわけですが、そうすると、ここがもし接着されているならシフトケーブルは交換できないことになる。

内装式では、ケーブル交換の際に、ほとんどの交換作業でインナーケーブルを抜く前にリードのビニールチューブを通しておくのが鉄則です。でもキャップが外れなければリードのチューブは通せません。キャップの穴はインナーケーブルがぎりぎり通る内径なので、当然、チューブは通らずキャップを外すしかないわけですね。

だから、そんなことはないだろうと思いつつ、一応スペシャライズドに確認したところ、結果、やっぱりケーブルを交換することができない接着なんていうことはあり得なかった。

とりあえず、この状態を伝えたら、倉庫に保管している同年代のバイクで試してくれたようです。写真のバイク。担当した方が言うにはキャップはすぐに外せたとのこと。キャップの先にノーズがないということは、こちらはすでに交換されたことのあるバイクでしょうか。

もしくは、トラブルバイクのほうが過去に交換されていて、その時キャップの種類を換えたのかもしれないけれども、この形状のアウター受けに装着するキャップは先っちょに何もないほうがよいですね。

このようなトラブルを防ぐためにも定期的なワイヤー交換は必須。通常は2年に一回程度の交換が望ましく、使用頻度が高くて通勤など雨天でも乗るとか、湿気のある環境などでバイクを保管する場合は1年ごとでもよいかもしれない。そしてこの箇所の交換ではノーズなしのキャップを推奨します。

ノーズ付きキャップはもともとポリマーコーティングのインナー用に作られたキャップなので、ポリマー以外では使わなくてもよく、特にこの仕様のインナー出口側は、ポリマーケーブルを使う場合もトラブル防止の為にあえてノーズ付きは使わないほうがよいでしょう。

ポリマーケーブルは劣化で被覆が剥がれてきます。フロントディレイラーのフル内装式ケーブルでは、ハンガーシェル内をリードするためライナーチューブを通していることがありますが、このチューブ内に剥がれた被覆が詰まると、ワイヤー交換がとても大変。写真の真ん中の物体、ぐにょぐにょしてるのが剥がれたポリマーです。

詰まってる被覆を押し出せればよいけど、これだけぐにょぐにょが長いとチューブの中でインナーを完全にブロックします。ハンガーシェルは丸いのでカーブしてるとチューブ内の抵抗はさらに強くなります。

この時のインナーが通らなかった交換作業の時はライナーを全部取り出してライナーごと交換しましたが、今回の仕様ではノーズが曲がってしまうようだからさらにポリマーが剥がれやすいかもしれません。ノーズ付きを使うと、剥がれたポリマーがそこで詰まりシフト不良の原因になる可能性も・・・。

リアの固着したアウターキャップを外した方法とは

エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

さて、今回の難題はリア側。ビニールのアウターキャップは引っ張り出そうと力を加えるごとに割けてしまい、掴むところがほとんどなくなってしまった。最後は固着してくっ付いたキャップの残骸をフレームから切り離せるかストレートピックでこじってみるも、これもやっぱり駄目だった。

どうしても取り出せないリアのほうは完全に諦めて、こちらはフルアウターでケーブルをセットする準備をしようと思った矢先、待てよ、大事なことを忘れていたことに気付く。これまでもペダルの固着など数々のトラブルを解決してきたワコーズのラスペネ、これでもう一度試してみることにする。固着の相手が樹脂なのですっかり忘れていたのです。

ラスペネを時間を空けて数回注入したあとに、さらに一晩置いて浸透させてから、微かに残った切れ端を掴んで再チャレンジ。1回目は失敗。やっぱり駄目か。2回目、「えっ!?」一瞬自分でも目を疑った。外れた。こんな無残な姿になったのによく外れてくれた。ありがとう!!感謝の心に感慨無量とはまさにこのこと。

今回はほんとにダメ元のトライで、自分でも抜くことができるとは思っていなかったので、これは今までの難題な作業を解決した中で一番嬉しかった瞬間です。

再トライで成功したポイントは使った工具。キャップをつかめて、なおかつある程度固定できる先が細い工具はラジオペンチしか持っていないから、いくつかある中で最初は一番先っちょの長いもので作業していたんですが、2回目はちょっと考えました。

先が細いと柄から固定場所まで遠くなるほど掴む力が弱くなるから、小さいラジオペンチのほうがたぶんしっかり掴めるだろう、そう思ってパンク修理で小さい異物を取り出すペンチを使い、さらに捻りを加えて引っ張ったところ、なんとなんと、取れてしまった。ひねりがよかったのか?

このようなトラブルが起きたのは、フレームの仕様とバイクのメンテナンス、この2つが重なってこういう状態になってしまったわけですが、この形状のフレームでは、固着防止のためにキャップを挿入する時に薄くグリスを塗っておくとよいかと思います。

ただし、ケーブルのアウターキャップにグリスを塗るなんてことは普段は行いません。イレギュラーな方法ですがトラブル防止のためならよいでしょう。ヘッドセットのように塗装の油焼けには気を付けながら。

ちなみに、今回のようなアウター受けの形状がダウンチューブの上側に施工されているバイクもありますが、インナーの入り口側である上のほうだったら、もしキャップが固着しても問題ありません。アウターごとキャップが抜けない場合は別ですが、それはさすがに考えにくいのでインナーの入り口側だったら固着しても大丈夫。

この場合、インナーの出口のほうは、通常は、空洞式でハンガー裏がケーブルガイド仕様になっているか、このバイクのように差し込み式のアウター受けが装着されているかのどちらか。どちらも万一入口のほうでキャップが固着してもケーブル交換には支障ありません。この場合はリードのビニールチューブを使わなくとも交換できるから。

Allez Sprint Compも、こちらのメリダと同じく出口のアウター受けを、入口同様に差し込み式にしていたら問題は起きなかったのに・・。DSWはボトムブラケット(BB)側はフレームに空洞とか差し込み式のアウター受けで穴を空けたままだと、強度的に駄目なのかな?

塗装修復後に起きてしまったよろしくない事例

エアロロードバイクで致命的なアクシデントにつながらないよう注意すべきメンテナンスについて

こういう作業をしていると、どうしてもフレームの塗装を多少なりとも傷つけてしまいます。

リア側のキャップを取り出していた時に、穴の中に張り付いているキャップの残骸をフレームから剥がそうと、尖ったストレートピックで刳り取っていたので角の塗装が削れたところがありました。ここは同系色でタッチアップ補修。

こちらのバイクは他にもアルミの腐食した粉が付いているパーツがあったりして、クリーニングで全部きれいにしたんですが、BBの付近も腐食で塗装が浮いていて気になる箇所がありました。ここも少し剥がれているところをタッチアップで修復し、一旦終了。

ようやくケーブル交換の作業に着手でき、見栄えのよくないだろうシフトのフルアウター化も避けられて、時間が掛かったトラブルを解決することができた安心感で感慨も一入です。

ですが、数日後、もう少し見栄えを良くしようと作業した時にまたちょっとしたアクシデントが発生しました。BB付近の塗装を修復した箇所がどうしても気になるので、塗料を盛って段差を目立たなくさせるためさらにタッチアップしていたら、逆に塗装が柔らかくなって剥がれがもっとひどくなってしまった。見出しの写真に写ってる黄色いところ。

こういうふうに下地から塗装が剥がれている場合、塗料の付けすぎは禁物のようです。今後は気を付けよう。よい教訓にはなったけどちょっと残念。

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