自転車修理
変速不良の原因となっていたディレイラーハンガーの修復
ロードバイクを買取りする時に、店長が気を付けている最重要箇所、それがリアディレイラーが装着されているエンドのハンガー。
このハンガーは、一般的にはディレイラーハンガーが通り名です。でも店長はいつもエンドハンガーと呼んでいるので、この記事でもそう言います。
このエンドハンガー、曲がってしまうとシフト不良を起こします。通常は交換ですが、エンドハンガーはそのバイクのメーカーと契約しているディーラーでしか取り寄せることができないため、中古専門のアティックでは新品の交換は対応不能。
少しくらいの曲がりだったらアジャスターの調整で直ることもあるけれども、曲がりが大きかったらシフト不良は改善せず、その場合は通常は交換するしか手がありません。買取りの時に起こっている変速不良で、調整しても直らない時は、買取りできるかどうかここが判断の難しいところ。
エンドハンガーの曲がりを修正できるかどうか判断するポイント
これまでもロードバイクの買取りでエンドハンガーの歪みが原因とみられる変速不良は何件かありました。フレームがクロモリやチタンだったら何も問題ありません。ストレスなく簡単に修復できます。問題なのはアルミ。カーボンフレームでもハンガーはアルミです。アルミハンガーの変速不良はほんとに悩みます。
もしも買取りしたバイクの変速不良が直らなければ、ようするにハンガーの修正ができなければ、そのバイクは完成車での販売が難しくなります。
アジャスター調整で変速不良が直らないバイクは、最終的には買取り価格で判断し、今回のバイクも、エンドハンガーが歪んでいたので、それが変速不良の原因となっているのだろうということをお伝えし、それを前提に買取りさせて頂きました。お客様に断言できないのは、買取り前にその場でディレイラーを外して専用ツールで測定した結果をお見せするのは無理だから。ただ、リアディレイラー本体にキズが付いている状態からほとんどがご納得頂けます。ハンガーが曲がってる時は、落車やバイクを倒した時に外側に出っ張っているディレイラーが地面とぶつかることで擦りキズが付くから。
エンドハンガーは、上下が後方から見てどれだけ内側に傾いているか、まずその傾き具合をチェックします。修正はもちろんやってみなければ成功するかどうかはわからないけれども、判断するポイントは経験値。たぶん修正できるのではないかと判断した場合は買取りさせてもらいます。修正できなかったらそのフレームは廃棄、部品取りに回ります。ある意味、リスキーな買取りです。
店長が修正可能だと判断する歪みの差異は20mm以内。これは専用ツール装着前の目視だと縦の歪みでしか判断できませんが、ハンガーの傾き具合で、あきらかに大きな歪みの場合はアルミは曲げ戻すとボッキリ折れるので、その歪みは修正不可。歪みの差異をどのように数値で可視化するかは、昨年行った作業の記事をご覧ください。
で、今回は目視での確認で20mm以内だろうと予測したのでさっそく修正にチャレンジしました。
ロー側で変速不良が起きていたバイク
エンドハンガーの修正は、上下左右の4ヶ所で歪み具合をチェックし、測った寸法に基づきフレームセンターと平行になるように修正していきます。
修正方法は、先ほどの昨年行った作業のリンク記事で詳しく書いていますので関心ある方はそちらをご覧ください。
まず、修正する基準となる測定寸法を紙に書き出します。こちらの説明も先ほどの記事に詳しく載っています。実践される場合は参考にしてください。紙に書いたシート図は、今回も走り書きの汚い字で失礼します^^
今回の修正はFUJIのエントリーモデルだが、修正作業後、横の歪みは修正できたけど、縦の歪みはけっこう力を加えても数値が変わらなかった。このハンガーはアルミが柔いようだから折損しないギリギリのところで修正作業したが縦は変化なし。
1回目の修正では、横の歪みについては、材質が柔いためかいつもよりも修正値が大きすぎた。2回目の再修正でほぼ理想値に修正。シート図では、2つある測定寸法の右側「´」が付いてる青い数字です。
でも、縦の歪みは2度行っても数値が変わらない。材質が柔らかすぎて縦は弾力が強すぎるのが原因だろうか。修正ツールの作業中は、ハンガーは傾くけどしなっているだけ。力を抜くと元に戻る。これは力を加える限界点を超えるとボッキリ折れてしまうだろう。
ホイールを再セットして変速を確認したところ、修正前にロー側だけで起こっていた変速不良は解消した。横の歪みが原因だったようだ。
新車でも気を付けたい「エンドハンガーの平行度」に関係する変速不良の要因
今回の修正結果から、ギア全体に起こっている変速不良は縦の歪みが影響していて、ロー側に生じる変速不良は横の歪みが影響しているのかもしれない。このことから、新車でもたまに生じるこの現象は、ハンガーが歪んでいる時の症状ほど強くはないが、フレーム成型時の精度に関係しているかもしれない。
新車の時からロー側で変速不良が生じていた場合、もう一つ考えられる原因は塗料の塗膜。エンドハンガーをフレームに固定したあとにフレームと一緒にハンガーを塗装している場合は問題ないと思われますが、ハンガーが後付けで装着面をマスキングして塗装しているフレームは、端にマスキングから漏れたわずかな塗料が付いていてもハンガーの傾きに影響します。
新車でロー側の調整がイマイチという時は、エンドハンガーを外して確認してみてもよいかもしれません。
調整の際にイマイチの許容範囲を超えていて、その原因がフレームとハンガーが密着する部分に付いている塗膜が原因だと思われる場合は、その塗膜を削って密着性をよくすると解消するかもしれません。削るのはもちろん塗料だけ。くれぐれもフレームは削らないよう慎重に。端の塗料だけこそげ落とそうとドライバーとか押し当てて強く擦ったりすると、他のところが割れて剥がれてしまう可能性もあるのでその点も注意。
ちなみに、買取りバイクでも塗装の剥がれはよく見られます。特にフロントフォークのエンド。ホイールを外した時に、そのままエンドを地面に置いている方はご注意ください。アルミの塗装はスチールに比べて密着性は下がるので、地面に当たった衝撃で塗装が割れて剥がれる危険性が高くなります。特に相応の年数が経っているバイクは要注意。スチールでは擦れはあるけど剥がれはあまり見ません。(アルミと同じく、使用年数によって塗装が硬くなっているバイクは除く)
ところで、今回のハンガー修正で疑問に思ったことがあって、縦の歪みが上下でこれくらい測定値が違っていたら変速に支障が出るはずなのに、最初からロー側以外は問題なかった。ハンガー素材の弾力が関係しているのだろうか。不思議。
単体で買取りしたフレームのハンガーチェック
在庫しているいくつかあるフレームの中で、ちょうど倉庫から店内に移動していたフレームがあったので、そのフレームもついでにハンガーの平行度を確認しました。これは軽量バイクを謳っているモデルのフレーム。パーツが外されたバイクはどのような経緯でフレーム単体になったのかわからないから、こちらも念のためチェックします。
計測後、さっきほどではないけど多少歪んでいるので修正し、上下左右ともフレームセンターから2mmのずれということで修正完了。断言はできないけど、経験値で5mm以内だったら、おそらく変速に支障は出ないと思う。ただし、チェーンの摩耗が許容限度内で、リアディレイラーも正常動作が前提です。
時間ができたら在庫のパーツで組む予定だけれども、これで変速不良の心配はなくなったので、気持ちも作業も楽になり組むのが待ち遠しいですネ。
【番外編】エンドハンガーにまつわる悲劇
初めての経験でしたが、こんなことがありました。ある日のこと、リアディレイラーの変速がおかしいと持ち込まれた1台のロードバイク。ホイールが傾きブレーキシューの位置もだいぶずれていたため、まずはホイールを装着しなおしてから調整しようと外した瞬間、え? 我が目を疑った。
なんと、リアディレイラーがボロッと外れてしまった。最初は「なんだ?何が起きた?」と状況が把握できず少し気が動転してしまった店長です。よく見ると、フレームに本来取り付けられているエンドハンガーが外れて、ディレイラーと一緒にブラブラしている。(写真を撮っておけばよかった)
このバイクの後輪は、ただホイールシャフトの固定力のみでハンガーがフレームに付いている状況でした。ハンガーを固定するボルトは2本とも無くなっている。一つ上の見出し写真のエモンダと同じメーカーで、エンドハンガーの構造も同じでこのボルトがない状態でした。クイックリリースのナットの固定力だけで止まっていたということがわかると思います。
お持ち込みのバイクでこんなことは初めてだったので、ハンガーの取付状況など想定外でそこを見ることもなく、ホイールを外すまでまったくわからなかった。
実はこちらのバイクは、数ヶ月前に、電話相談を受けていたバイクでした。その時は、レース会場からのお電話で、ホイールを決戦ホイールに換えようとホイールを外したところ、変速機が取れてしまったとのこと。
その電話を思い出し、お聞きしたらやっぱり同じ状況だった。その後、購入したショップで解決していると思ってましたが・・・。でも、そのショップでは、ボルトが無くても大丈夫だと言っていたらしい。なんで大丈夫なのか、信じられないな。
エンドハンガーにまつわる悲劇 その2
ちなみに、曲がったエンドハンガーですが、曲がった状態のままで使い続けた場合も危険な状況が想定されます。
この状態では、変速不良だけで収まらず、変速の時にディレイラーが傾いたまま移動することになるので、ローギア側を使用する時に、さらに内側に移動するだろうから、チェーンが外れてスポークの間に挟まる可能性が高くなります。実際、6速の廉価車では外れたチェーンがスプロケットの中に絡まってしまうことも多く、こうなると直すのが大変です。
そして、チェーンが外れるだけならまだしも、最悪、ディレイラーのケージがスポークに引っ掛かってしまうと、これは大変深刻な状況に・・・。
もしもケージがスポークに絡んだ場合は、その瞬間にバイクが破損します。走行中は一瞬でロックが掛かった状態になるので事故になるとも限りません。
クロスバイクもどきのルック車で、過去に同様のケースが数件ありました。持ち込まれたバイクはもちろん走行不能。修理も不能。幸いお体は怪我もなくバイクだけが被害にあったようです。いずれも、街乗りのスピードで走行していたから被害を最小限におさえることができたようす。
ルック車は、特に6速の廉価ディレイラー装着車は次第にガタツキが大きくなってくるので、数年経ったルック車はローギア側への変速は十分注意したほうがよいですね。店長は、ディレイラーの状態によってはローギアはもう使わないほうがよいと説明しています。
ともあれ、バイクの車種に限らず、普段から変速がおかしいという場合は早めの点検をお勧めします。