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初めて作業したパワートルクのクランク取り外し

2024年03月09日

自転車修理

初めて作業したパワートルクのクランク取り外し

コンポーネントを換装したときの、部品の規格に関連してのおはなしです。

コンポ換装時には、換える部品によってはメーカーの独自規格で構成していることがままあって、その代表的ともいえるのがボトムブラケット(以下BB)と、その関連部品。

BBについて言えば、その仕様は大きく分けてネジ式と圧入式の2つになりますね。このうち今回交換するネジ式タイプは、市場に出回っているのは現在のところITA(イタリアン)とBSA(JISとも)の2種類です。この適合規格を間違えるとそのフレームには使えません。

ネジ式の場合、そのBBを取り付けるフレームのほうはメーカー独自規格ではありませんが、部品のほうは、圧入式ほどではないけれども、ネジ式もBBとこれに取り付けるクランクがメーカーの規格ものである場合はこちらも独自規格品といえます。

ということで、さらにそのBB規格を掘り下げながら、クランクセットが独自規格であったために少しだけ苦労した作業のことを書いてみたいと思います。

ネジ式BBの規格について

初めて作業したパワートルクのクランク取り外し

BB規格について、少しおさらいしておきましょう。

ネジ式BBで気を付けなければならないのが、この2種類の規格のうち、ITAとBSAのどちらが使われているかということですが、見分けるのは簡単です。BBワン(またはカップ、シマノはアダプターとも)に36×24という表示があればITA規格、1.37×24と入っていたらBSA規格となります。

もしも、交換ではなく、新品を取り付ける時にBBが装着されていないフレームのほうで見分ける場合は、装着箇所のBBシェル幅を測ります。BBシェルはBBハンガーとも言ったりしますが、どちらも同じ意味合いです。BBを取り付けるフレーム底部の外端長さを指していて、ここが70mmならITA、68mmだったらBSAです。

でも、BSAでも、マスプロ車では1mmくらい広くてぴったり68mmではないフレームも見掛けます。塗装で68mm以上のケースもあるでしょう。ITAの場合でも、オーダーバイクなど、フェイスカットしすぎて70mm以下のフレームもないとは言えません。もし、シェル幅の計測では不安だなという時は、シェルの内径を測って34.8㎜ならITA、33.7mmの時はBSAです。

ただし、シェルの内寸を測定する場合、精度の良いノギスでも実測すると0.1~0.2mmくらいの誤差は生じると思われます。内径での測定は計測位置にもよるのであくまで参考値として捉えてください。部品メーカーでも装着箇所の対応内径寸法は出していないようです。

ITAの正式規格名は「M36×24山」、BSAは「B.C. 1.37″×24山」。この規格名の数値は、BBワンのネジ径を計測した時の外径値で、36mmだったらITA、1.37インチつまり34.798mm≒34.8mmならBSA。フレーム装着箇所を実測した時とは1mm強の差が生じます。

この差はネジ山の高さ(上から溝の底まで)の数値ですから、内寸と外寸の実測値は一致しないのが当然。前述のシェル内を測った数値は、BBパーツの規格数値とは異なりますのでご注意ください。

特に、ITAの内寸34.8㎜と、BSAの外寸34.8mmは同じ数値ですから、計測箇所の認識を誤って混同しないようくれぐれもご注意を。デンマークのセラミックBB代理店サイトのように、装着時のシェル内径箇所にBBの規格数値が掲載されているケースもありますから、通販で商品を購入される場合に計測数値で対応規格を判断する場合はご注意ください。

なお、ネジ式のBSA規格は、イギリスの工業規格なので単に「イングリッシュ」とか、「英ネジ」と呼ぶ場合もあるかと思います。国内では「JIS」で通っているかも。なかには、BSCという表記を見たことがあるかもしれません。いずれもISOに準ずるBSAと同じ仕様です。BSAとBSCの違いは工業規格の生い立ちにあるようですが、商品表記はBSAが多いかな。

で、今回、コンポーネントをカンパニョーロ(以下、略称カンパ)からシマノに換装する時に、イタリアンバイクだからカンパのBBもイタリアンだと思いきや、装着されていたのは意外やこのBSAでした。

実は店長、このバイクのBB規格がBSAだったことでほっとしたのです。中古の手持ちパーツで換装するのでネジ切りBBはBSAしかなく、在庫を切らしているイタリアンでなくてほんとによかった。

カンパのベローチェからシマノの105に換装する作業

さて、BB規格のおさらいを終えたところで、本題に入ります。

冒頭でメーカー独自規格に触れていますが、今回交換するハンガーまわりは、先ほど出ているように、ネジ式BBではごく一般的なBSA規格。BBの着脱は何も問題ありません。カンパツールが必要ですが、脱着工具が手元にあれば簡単に外せます。(シマノツールはキズが入るので使えるけど非推奨)

ちなみに、ご存じの方には当然のことですが、BSAとITAは右ワンのネジが正反対です。BSAが逆ネジ、ITAは正ネジとなります。ペダルで左のほうが逆ネジであることを知らず、クランクを交換せざるを得なくなる方が時々おりますから、もしご自分で初めてBBを交換される場合は、対応する規格に十分ご注意ください。

シマノの場合は矢印で回転方向を示しています。規格表示でネジ山の向きを判断できなくても、矢印の通りに挿入すれば安心ですね。新品BBは箱から出した時に、インナーカバー(スリーブ)の表示でも左右を判断できますが、写真は付け替えたことがあるのでしょう。装着の向きが逆。とりあえずスリーブは逆向き装着でも構いませんが、これで判断する場合は中古品はお気をつけください。

ここから、いよいよ換装作業について。

BB着脱は問題ないけど、BB以外に、問題というか店長がこの作業で困ったのが、BBを外す前の、そのBBに装着しているクランクセットのほうです。パワートルクというカンパ独自のクランク規格に対応する専用工具を持っていなかったのです。パワートルクは昔のカンパ規格、その当時はまだ新車中心の営業でカンパのメンテナンスはほとんど依頼がなく、パワートルクの工具は用意していなかったわけです。

そこで、また知恵を絞って何とか作業を終えたので、このクランク脱着作業を、ご自分で作業する方にもご参考となるよう、店長の作業風景をじっくりお伝えします。ご自分で脱着を行う場合は専用工具をご用意のうえ作業してください。

ベローチェのパワートルククランクを代用品で脱着する

初めて作業したパワートルクのクランク取り外し

今回のギアクランクは、カンパの旧式モデル「ベローチェ」のパワートルク。2024年現在はすべてのカンパクランクはウルトラトルクに仕様変更されていますが、以前は、下位モデルはパワートルクで、構造がシマノの2ピースクランクのように右クランクのシャフトに左クランクのギザギザを嵌め込む方式。方式は同じでも、カンパは篏合が固いので通常は専用工具を使わないと外せません。

パワートルクはその後2017年にポテンツァでワンキーリリース化され(名称がパワートルク+)、そしてパワートルク自体が廃止され、2018年から全モデルがウルトラトルクになったので専用工具は必要なくなったけれども、今回は旧式のベローチェ。対応できる工具がないとコンポの交換自体ができません。(ウルトラトルクって何?という方はこちらの記事で)

シマノは左クランクの両サイドでBBシャフトをボルトで固定しています。一方、カンパクランクには、シマノのようなボルトはなく見た目がシンプル。装着はシャフトのギザギザに合わせてクランクを圧入し、クランクキャップで締め込む簡単仕様。

でも、装着は簡単でも、逆に外すのは大変。篏合がものすごくきついのです。きつくなかったら簡単仕様なのでガタ付きが出ますから当たり前といえばそうですが、試しにシマノで外す時のようにクランクを叩いても、さすがにびくともしません。

このパワートルクを外す時には、プーラーと他にUT-FC090という専用工具が必要です。店長は、カンパのギアクランクはウルトラトルクしか脱着したことがなく、前述のように、カンパのBBまわりをメンテナンスする作業は中古専門店に移行してからなので、レンチ1本で外せるウルトラトルク以外の対応工具は持っていません。

さて、困った。そこで何かいいのがないかと部品棚を探したところ、いいモノ発見。今回用意したのは、補修用の小物の中から探したボルトとワッシャー。これを利用します。

パワートルクの脱着ツール「UT-FC090」の代品となるボルト・ワッシャーの条件

初めて作業したパワートルクのクランク取り外し

パワートルクの各寸法を実測したところ、クランクのキャップを取り付ける内径が27mm。シャフト外端部の内径が21mmで、クランクのギザギザスプライン内側の内径が23.5mm。この数値内にピタッと収まるようUT-FC090の代わりになるボルトでなければいけないわけですが、もちろん、そんな都合のよい形をしたボルトはいくら探してもありません。

そこで、今回の作業では、手持ちのネジ類の中から条件の合いそうなものを見つけて、ボルトとワッシャーを組み合わせて代用しました。

ワッシャーの代品条件は、外径がクランクのキャップ部内径27mmに収まる大きさで、かつ、スプライン内側の内径23.5mm未満、そしてシャフトの内径21mm以上。この差2.5mmの箇所でシャフトに固定されてプーラーの加圧を受け止めなければなりませんから、普通のワッシャーの厚みでは寸法は適用できても強度が足りません。

なので、何かいいのがないかネジ箱を探っていたら、ちょうどよさそうなのがあった。どのモデルのものかは不明だけど、何かのクランクに付いていたワッシャー付きの固定ボルト。これが使えそうだったから寸法を測ってみました。

まずボルトをパワートルクのシャフトに当てて状態を確認。くっ付いているワッシャーは1.5mm厚、外径は20.5mmでシャフト内のネジ部は内径19.5mmだから、中に入ってその差1mmで止まっている状態。写真は脱着後ですがこういう感じです。

径の差が1mmなら引掛かっている部分は0.5mm。おそらく、この状態では強度的にプーラーの加圧に耐えられず、ネジ山の中にめり込んでしまう危険性が高いため、さらに2.5mm厚のワッシャーがあったのでこれを組み合わせました。

2枚重ねて厚さが4mmあれば強度は問題ないはず。このワッシャーは外径が22mmで大きさもちょうどよい。クランクのスプライン内径23.5mm内に収めるにはその差1.5mmと理想的な大きさ。

シャフト外端部内径が21mmなので受ける部分は1mmしかないけど、シャフトの端面だったら1mmでもおそらく大丈夫。このボルトとワッシャーをゴムで巻いて動かないよう固定します。

この巻いたゴムが、シャフト内にガタツキなくピタッと装着できる二次的効果がありました。プーラーを固定する時に、プーラーを受ける部分も固定されていないと大変作業がしづらいのです。

さらに、今回はシャフトに対してボルトが接する面積が1mmしかないので、ガタガタしていると失敗する可能性もあるためその意味でも厚めのゴムを巻いて正解でした。

ちなみに、カンパには、クランクを抜く時の受けの工具はあってもプーラーはありません。ワインのコルク抜きは作ってもパワートルク必需品のプーラーは用意なし。

それでプーラーは自分で揃えないといけないんですが、調達される場合は、店長が使っている形が作業しやすいと思います。工具屋で一般的に販売されているベアリングプーラーだと、両側のアームが固定されるまでグラグラしやすいので、そちらはおそらく作業しづらいと思われます。

パワートルクのクランクを抜く時は慎重に作業する

初めて作業したパワートルクのクランク取り外し

いよいよパワートルクの脱着作業開始。今回使ったボルトの頭は、窪みがあってプーラーのシャフトを受けるのに径もちょうどよい。プーラーをセットする時にもぐらつかず、この作業のために用意されていたような感じのボルトですv

まず、プーラーをクランクに固定します。クランクに傷が付かないよう、一般的な養生テープで養生します。もしも、クランクを抜く時にかなりきつい場合はもう少し厚くてやわらかいものを用意したほうがよいかもしれません。

しかし、思っていたよりも固い。この固さでは付属のハンドルで抜くのはどうも無理っぽい。

そこで、この華奢なハンドルもどきの棒は抜いて、300mmのアジャスタブルレンチで作業を継続。巨大レンチだと、篏合が外れる感覚がはっきりわかるので作業もしやすくなった。時々確認しながらじわじわ抜いていく。

無事に外れました。しかし、錆がひどい。クランクを回すとごりごり音がしますが、この錆はワンの中のベアリングから出ている錆なので、この状態では交換必須。

ドライブ側も錆だらけ。パワートルクの装着ベアリングは、左側はワンの中に圧入されて、右側はクランクの根元に装着されていますが、その右クランクの圧入ベアリングは緩くなって外輪がグラグラ状態となっている。

このベアリングをプーラーで外し、新品ベアリングに交換すれば、ギアクランクのほうはまだまだ使えるようです。

外した左クランクは、今回は養生テープ1枚でもキズは付かなかったけれども、圧着を受けていた箇所はテープが破れていた。テープが破れてもキズが付いていなかったのは幸い。旧式アテナのように、カーボンクランクのパワートルクで作業する場合は、くれぐれも傷が入らないよう十分に養生してから行ってください。
 

以上、今回のカンパクランク脱着は、最初からパーツ全取り換えの作業の中で、唯一クランクを外す時のプーラーを受ける専用工具がなかったため最初はちょっと悩みましたが、パーツの構造さえわかっていれば何とかなるものです。

しかし、パワートルクのクランク交換は、他社の2ピースに比べて手間と時間が掛かりますね。一般ユーザーの方はプーラーでクランクを傷つけてしまうかもしれません。評判が悪かったのか、下位モデルもウルトラトルクに切り替わったというのも頷けます。カンパは定期的なベアリング交換必須なので、交換のたびにこの作業が必要なら、2台目は考えてしまうかもしれませんね。

以前作業した先ほどのリンク記事でもウルトラトルクのベアリングがボロボロでしたから、もし、ノーメンテナンスでハードな使い方ですと、カンパは何かと支障が出る可能性も考えられます。スレッド式でも構造が違うシマノのBBは、いくらハードに使ったバイクでも、ベアリングのこういうボロボロ状態は見たことがありません。

あとがき

初めて作業したパワートルクのクランク取り外し

今回のカンパを換装したバイクはイタリアのボッテキア。国内では扱い量が少ないメーカーで、アティックでも今回で2台目。生粋のイタリアンバイクと捉えていたのでハンガーシェルの規格もイタリアンだと思ってたんですが違いましたね。

そうすると、私が知っている中では、唯一、ピナレロだけはITA規格で統一されているのではないかと推察しますが、ディーラーではないので断言できず。ほかにも国内流通でイタリアンBBを装着しているイタリアメーカーはあるのでしょうか。

現在、国内の代理店が扱っているイタリアンバイクはBSAが大半かと思います。ピナレロ以外はこれまで扱ったイタリアメーカーはすべてBSA規格でした。取引のないメーカーでは、デローザ、コルナゴ、チネリ、ビアンキ、フォンドリエスト、etc.。イタリア国外での流通を考えるとイングリッシュのほうが体裁がよいのかもしれません。

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