ATPはアデノシン三リン酸のこと。「Adenosine-Triple-Phosphate」の略で、体内のエネルギー代謝をつかさどる物質。サイクル用語という訳ではないけど、運動選手にとってはとても気になる用語だから取り上げよう。
ヒトは、気温が高くて暑い時と、運動して暑く感じる時に汗をかく。しかし、生体反応としての過程は大きく違う。ここで取り上げるのはもちろん運動のほう。そもそも、なぜヒトは体を動かすと暑く感じるのか。これは、体内で栄養分を燃やす(カロリーを消費する)ことでエネルギーを発生させているから。エネルギーで動くのは車もヒトも同じ。車はガソリンを燃焼させて動かすけど、ヒトは、エネルギーをATPという物質に変換させて体を動かす。ATPを合成できないと、ヒトはピクリとも動けないのだ。
で、ATPが作られる時は(筋肉に常時存在するものだけど)、エネルギーの元となる栄養素が、血液を介して筋肉の発電所とも言えるミトコンドリアという細胞にバンバン送られている。ここでATPは常時生産されている。エネルギー源が枯れると困るので、肝臓や筋肉内に蓄えられているグリコーゲンも、グルコースという糖分いわゆる血糖になってどんどん補充される。
ATPは、うしろにPが付いているとおり、3つのリン酸がアデノシンという物質に結合している状態で、1つのリン酸を離してアデノシン二リン酸に変化するときにエネルギーが生まれる。そのエネルギーで体は動いている。で、運動中はすぐその働きを終えるので、どんどん再合成しないと動けなくなってしまう。
そこで、エネルギー源として即効性があるのが単糖類という糖分。これは、くだものに含まれているぶどう糖や果糖などで、甘味があるのが特徴だ。即効性は落ちるけど持続性が強い方は炭水化物に含まれる澱粉質で、こちらは多糖類という。あまり甘味はない。水分で分解されると甘味が出てくる。どちらも最終的には単糖類としてエネルギー生成に利用されるのだけど、体内で多糖類が、ある酵素によって単糖類に分解されてエネルギー源になるまでには時間が掛かる。ゆえに多糖類は持続性がある。中間的なものには、牛乳の乳糖などがある。さっきの備蓄例で言えば、グリコーゲンが多糖類。グルコースは単糖類だ。
ところで、体内では、運動強度によって使われる栄養素が決められている。その強度を、どれだけの時間持続可能かによって、エネルギーの生産システムが変わってくるのだけど、これは、無酸素運動と有酸素運動の二つに分けられる。ATPは、このシステムの力を借りることではじめて機能するのだ。で、無酸素運動で使われる栄養素はほとんどが糖分。有酸素運動では糖分や脂肪が使われる。少し息がはずむ位の運動では半々くらいの割合で使われる。
そして、筋肉発電所でエネルギーとして燃やされたあとは、燃焼物として二つの物質が排出される。一つは呼気ガス、いわゆる二酸化炭素。もう一つが水分。これが冒頭で述べた汗の正体というわけだ。しかし、この時に汗をかかなかったら大変だ。体温がどんどん上昇して熱中症に陥ってしまう。そして排出された分は水分補給が必要である。ロードバイクに乗るときも定期的な水分補給を心掛けよう。ちなみに、日差しの強い屋外で運動している時などは、脱水症状にならないよう注意していると思うが、屋内の運動のときも気をつけなければいけない。ローラー練習でも適度な水分補給は必須である。冬でも汗をかくならおんなじ。
水分補給について、ひと昔前の学校の運動部では「運動中、水を飲んではダメだ」などと言う話をよく聞いた。水を飲むとよけい汗をかいて疲れるからっていう理由のようだが、これは間違い。逆に、水分が補給されないと、血液の粘度が高くなってしまう。乳酸の分解も遅くなって、疲労も回復しにくくなる。最悪の場合、トンデモナイ事態を引き起こしてしまう。ただ、飲み過ぎにも注意。おなかを壊すし、代謝のバランスも崩しかねない。気をつけよう。