酸素がもたらす恩恵は計り知れない。人は酸素なしでは生きてはいけない。そして酸素はスポーツにも密接な関わりを持っている。酸素を意識することは、運動能力を伸ばしていく時にもっとも大切なポイントである。
酸素と言われて真っ先に思い付くのは最大酸素摂取量という言葉。体内にどのくらいの酸素を取り込めるか、体力指標としてよく使われる。おもに持久系スポーツで重視されていてVO2MAXと表記されることもある。
例えば、体格が違う選手同士の体力レベルを比較したとしよう。ある選手は体が大きく、もう一方の選手は体が小さい。体が大きいほど筋肉量も多いため筋肉に含まれる酸素の量も多くなり、必然的にこの数値も高くなる。しかし、体が小さいもう一方の選手の場合は、筋肉量が少ないため筋肉中の酸素の量も少ないということにつながり、この状態では体力を比較できる正確なデータは得られない。
そこで、体重あたりの数値に換算して、1kgあたりの酸素摂取量で体力レベルを判断するのが一般的だ。数値が高いほど体力が優れているということ。単位は「ml/kg/min」で表す。
ちなみに、少し古いがある統計資料によると、世界で活躍するトップレベルのアスリートの数値は、ロードでは大体80ml/kg/minくらいである。マラソンも大体同じくらい。クロカンスキーでは、90ml/kg/minを超える選手もなかにはいる。なぜ、クロカン選手の数値だけが高いのだろう?(※この資料は、以前に全日本クラスの選手もまじえて体協で体力測定した際に道体協からご提供いただいた資料だが、これはロス五輪当時の資料であるから少し古い)
自転車の場合、他の持久スポーツに比べ、エネルギー代謝のなかで速筋に依存する割合が高くなる。そして、マラソンよりも体に対する負担がもともと少ない自転車とクロカンスキーだが、後者の方が数値が優れているのは、より遅筋のエネルギー代謝比率が高いからだ。
ところで、冒頭に述べた、この酸素がスポーツの中ではどのような役目を果たしているのかについて、これを簡単に書いておこう。体内では酸素の摂取量が多ければ多いほど、より長時間にわたってエネルギーを発生させることができる。簡単にいうと、これはエネルギーの副産物である疲労物質、いわゆる乳酸などを酸素がどんどん分解してくれるから、その乳酸を再活用させたりしてまた新しいエネルギーを発生させることが出来るということ。
そして、酸素が体内の備蓄栄養素をエネルギーに変換させる時にも、摂取する酸素量が多い選手ほど、また、この酸素を活用できる能力が優れている選手ほど、より高いパフォーマンスを発揮することができる。
短距離種目の選手よりも、持久的な長距離種目が得意な選手のほうが、体内に酸素を取り込む能力が優れているのだけれど、ただし、この能力は、生まれた時からの体質にも依存されるため、同じトレーニングを行っていてもその伸び方には差が出るとおもう。