プロとはもちろんその道で生計を立てている優れた技能を持つ人のこと。自転車の世界でもしかり。レースではひとつのカテゴリでもある(あった)。
表現が曖昧なのは、訳がある。
実は、ロードレースの国際的なそれには既にプロというカテゴリは存在しない。今はオープン化に伴い、ある条件によってレースは開催されている。第一に、年齢によるカテゴリ区分(男女とも)。第二に、ロードレースの格式別ともいうべきクラス分け。それぞれUCIのルールに基づく。
しかしながら、日本は少しばかり事情が違う。日本には、「日本プロフェッショナルサイクリスト協会」という協会がある。ゆえに、日本には独自のプロのカテゴリが存在する。これはJCFの登録規程に基づいており、ほとんどが競輪選手である(ということは、プロ登録以外、他はアマチュア。かなりヘンな話だが、JCF及び加盟団体が認めた場合はアマ大会にも参加出来る。逆もまた然り)。しかし、数年前からロード選手も属しており現在26名がプロとして活動している(’2002末時点)。トレードチームの所属いかんに関係なくプロである。
欧米のように、職業として確立している選手達を今もってプロと呼んでいるニュアンスからすると、日本はちょっと違う。今現在でいえば、実業団チームで、同一チームの中にプロとそうでない選手が混在しているところもある。なぜこういうケースが出てくるのか。これは、日本ではロードレースがマラソンのように市民権を得ているかどうか、いわば、企業がロードレースをスポンサードするに足るかどうかをどう捉えているか、そういうところにも関わってくるのでこの話題はちょっと避けよう。
さて、社会人アマとも呼べる実業団レースをプロ登録者が走る事には当初は賛否両論あった。しかし、登録費用を別額にすることでこれは解決している。競技力向上には柔軟な姿勢も必要なのだ。で、彼らがプロ登録するのはもちろん理由がある。それが日本独自のプロたるゆえん。成績に応じた補助金だ。金額は公表されていない。
競輪選手がロードレースに出ているケースもある。競輪選手には年間保証がある。学校もあって入学も厳しい。しかし、それとは関係なくロードプロとは一線を画している。もちろん、補助金は眼中にないはず。なぜ短距離種目の彼らが長距離のロードに出るのか?
ここからは、「競輪選手」にスポットを当ててみよう。
その昔、ロードレースで活躍していながら、実業団あるいは学連から競輪界に入った選手がいた。当時、国内ではロードでそれ以上進むべき道がないからと、競輪界に向かった選手もいた。海外に出るのは今ほど簡単ではなかった。現在のような国内でのプロチーム(今のトレードチーム)を結成して活動するなどは、当時はまだ夢のような話だった。
更に、東京オリンピックの時代まで遡ってみると、そのプレ大会でヨーロッパの強豪を打ち破り優勝された、同郷の敬愛する大宮政志選手も競輪界に進まれたひとりである。本大会ではメダルを期待されていながらも、レース途中のアクシデントに見舞われ足を使い、何とかトップと同着ゴールしたものの15メートル差で痛恨の30位台に終わったそうだが、ゴール後に大変悔やまれたそうだ。大宮選手は、当時は国内では敵無しの存在だったと聞く。その頃は日本も世界と同じレベルにあったわけだ。今の時代だったらどのような道を歩まれたろう。
さて、その競輪界の選手達であるが、彼らの中には、本業に少なからぬ影響を被りながらも、トラックレースの国際大会に参加して活躍されている選手もいる。ナショナルジャージを纏い力走する彼らの姿は競輪場で見るそれとはまったく印象が異なる。感動すら覚える。国際大会の前には合宿も幾度となくこなされている。日本全体の競技力向上にもとても素晴らしいことだと思う。しかし一方で、競輪界のトップレベルの選手でも、国際舞台には一切関わらず「競輪」の仕事に専念している選手もいる。
残念な事に、競輪という言葉は一般から見るとギャンブル的イメージが今だ強い。それをあおる悲しい漫画雑誌も存在する。スポーツとしては、一般からはあまりに遠く感じる。そして、自転車競技を単なる競争だけでなくスポーツとしての側面からみた場合、そのことがイメージダウンにつながっているとしたならそれは大変残念なこと。日本自転車振興会が積極的に競輪のイメージアップに取り組んでいる昨今、今後に注目したい。
ちなみに、日本発祥の国際競技種目「ケイリン」と、「競輪」はべつもの。レース展開もまったく違う。「ケイリン」が新種目になった当時、国際大会で選手のルール解釈違いで失格となったケースもあった。「競輪」ではあのヘルメット(デッカイ例のあれ)もポジションを確保するためには役立っているのかもしれない。
蛇足だが、ロードレースをよくご存知ない方の中には、ロード選手を競輪選手と誤解される方がいらっしゃる(特に年配のかた)。歯がゆい思いをしたレーサーも多いと思う。店長もそうだった。悲しい話である。『どう見てもロードレーサーだろう!』と声を大にしても、その方には競輪しか頭に浮かばないのが残念でならない。