一対一で勝負するレースをこう呼ぶ。トラックレースでも使うが、ロードレースでは、逃げている選手同士が最後に優勝を掛けて一対一で勝負する場面をこう言ったりする。
レースの途中で動きがあり、運良く集団から逃げ続けることができた二人の選手。しかし、終盤まで協力しあいながら長時間走ってきた間柄であっても、最後までこの協力関係は続かない。
徐々にゴールが近くなると、それまで規則正しく先頭交代を繰り返してきた選手達のリズムが崩れ、お互いの動きをじっくり観察するようになる。相手の足がどれだけ残っているのか、揺さぶりを掛けたりなど駆け引きが始まり、その反応の様子も相手の疲労度合いを判断する材料にしていく。
時には後方の選手が先頭交代を拒否して前に出なくなったりもする。もちろんその動きに応じて前の選手もペースを落とし、体力を温存する走りに切り替える。これは牽制が始まったということ。
チームが違えば、エスケープで最初から最後まで協力関係が続くことはあり得ない。途中までは、集団から逃げ続けることでお互いに利害が一致していたため協力しあってきたのだけれども、ここからはいよいよ優勝を掛けてマッチレースが開始される。
ゴールを目前にしても勝負が決まっていなければ、通常はゴールが近付くにつれ更にスピードが遅くなる。さながらトラックレースのスプリント競技のように、お互いがお互いの動きを見逃さないよう最後のスプリントに備える。1位と2位との差は天と地ほども違う両者共に緊張する一瞬だ。
そして、戦法として、前方の選手は後方の選手が突然ダッシュしても反応が遅れないよう左後方に注意しながら道路の一番右端に寄ったりする。右後方に注意する時は左端に寄る。どっちかに寄るのは、注意している方の反対側の死角をカバーするため。どっちかを選ぶのは、ペダルの踏み出しやすいほうに合わせるため。ただし風向きによっても変わってくる。
その後、二人のうちどちらかがゴールめがけていっきにスプリントを仕掛けるわけだ。先行逃げ切りが得意か捲くりが得意かで、仕掛けるタイミングも変わるだろう。
ところで、マスドロードレースの場合、大事なのは着順であって、タイムはリザルトの上では重視されない。そこで、この二人は、後続集団に追い付かれなければじっくりと時間を掛けて、最後まで一対一の勝負に専念できるわけだ。