豊富100マイルロードレース
7月30日に行われた、豊富100マイルロードレースにS2クラスで参加した、そのレースレポートです。
29日15時頃に豊富に到着し、明日走るコースの試走をみんなで行ってから、食事と買い出しをすませて兜沼キャンプ場に行きました。すでに遅い時間だったので急いでシャワーをすませて、そのあとに軽いミーティングと、ビール片手に軽く激励会を行って盛り上がったあと、22時頃に消灯。
北緯45度を越えて稚内に近いので、寒いだろうと思っていたら以外と暑くて、寝袋の中は汗だらけになってしまい、夜中に起きて寝袋から脱出したり。寒さで目が覚めてズボンをはいたり、明け方の雨で雨のレースはどうやって走るのかを、半分眠ったような状態であれこれ考えたりと、十分な睡眠が取れないまま起床時間となる。幸い水たまりの出来るような雨ではなかったようで、車や舗装道路が黒く濡れている程度だったので、洗面と軽い朝食の後、撤収準備をして6時に兜沼キャンプ場を後にする。途中、補給用のボトルを冷やす氷をコンビニで購入し、7時過ぎに会場到着。早速バイクを降ろしてアップと思ったけれど、先に受け付けと出走サインをすませる。ここでビックリニュースが飛び込む。S2でエントリーしていたH君がS1に変更されていました。本人もショックのようで、チーム員から慰められて、今日は完走目指して頑張る気持ちになったようです。
当初S2は、UさんとH君と私の3人で走る予定で、途中で私が逃げて集団の足を使わせ、2人は後方待機で最後のスプリントに備える予定でした。その後、十勝で行われた大会でUさんが優勝してS1に昇格し、H君と2人で頑張ろうと誓っていたのに、お互いにショックでした。
とりあえず受付をすませ、各自アップを始めます。私はMさんとUさんの3人でコースを途中まで走ってから引き返し、時間が来るまでゴール前の上り坂を何回か走って、へろへろになってゴールするイメージで、LSDペースのスプリント練習を何回か行う。
今日はプログラムの進み方が早いようで、アップが終了したと同時くらいに開会式が始まり。あれよあれよと言う間に選手の招集がかかってしまう。
少し慌ただしいが、くよくよ考える時間がない分、割り切って走れるのでかえって良かったかも知れない。一番最初にスタートするS1クラスのUさんとH君は片平さんに色々とアドバイスされ、緊張した面持ちでスタートを待っている。やはり超人がたくさん居ると言うS1クラスで走るには、よほどの覚悟がいるようだ。私はこのままS2でレース人生を終えるのが丁度良いかも、などと馬鹿な事を考えていると、号砲が鳴ったかどうかわからないが、クリートの音高くS1がスタートして行きました。
S1スタート後、5分でS2がスタートです。私は片平さんに、勝ち負けに関係なく、途中で逃げて男らしくスパッと討ち死にしますと宣言してあるし、H君から、「昨年は結構ノンビリ走ってましたよ」と助言を受けていたので、そのつもりでスタートを待っていました。
いよいよ8時35分、S2のスタートです。カチャカチャとクリートを装着する音を響かせ、S2とJ(高校生)クラスがノンビリと、じゃなくて、結構なスピードで走り始めます。最初の下りをおりて平地でスピードメーターを見ると40kmオーバーです。話しが違うと思っても、すでに後の祭り。なぜか集団の前方でローテーションに加わっている自分がいました。
少し落ち着いて回りを見渡すと、大滝で知り合ったKさんがいるし、会社の同僚のS君もいたので、それぞれに挨拶して緊張をほぐしておきます。集団で進んで行くと、早速路上に横たわるS1の選手を発見。一気に集団に緊張が走る。一周目は全体に高速で進み、若干スピードが落ちたのは中間の登り区間だけで、あっと言う間に2周回目に突入していった。
集団全体はH君の言ったようなノンビリモードは感じられず、高速を維持しつつ飛び出しをつぶすような雰囲気をただよわせて進む。2周目中間の登り区間で早速ふるい落としがかかり、ヒルクライム系の選手が様子見で飛び出し、やや一列棒状に集団が変形する。私は体重制限に引っかかっていて、登りで頑張ると足が無くなってしまうので、あまり無理をせず、登りの手前で集団の先頭に立って、登り切った時に集団の後方に位置する走り方をする。
みんなヒルクライマーに遅れまいと、登りをダンシングで頑張って登って行くのですが。その横で涼しい顔をして登っているとヒンシュクを買いそうなので、一応苦しそうなフリをして登り切り、ようやく私の得意区間の下りに入ります。体重が重い私は、下りでは何もしなくても先行する選手に追いつき、追い越して行けるので、今回は下りでガシガシと踏めるようにと、ギアは11Tを選択。
下りで後方から一気に集団の先頭に飛び出して、平地でローテーションに加わります。平地を過ぎてアップダウン区間に入ると、集団の動きがゆっくりしてきました。どうやら中間の登りで使った足を休ませているようなので、私も一緒に休憩を取り、3周目に入ります。
3周目に入るとローテーションがうまく回らなくなる。集団前方に出てきても、ローテーションに入るわけでもなく、3~4番手をキープして動かない選手がいるので、思わず「回さないのですか」と声を掛けると、回す気がないようで集団の後ろの方に下がっていってくれた。
私のほうはここまでローテーションで加わっていて疲労が濃くなったので、一時集団後方に下がって休み、中間点の登り区間が近くなると前方に出て、先ほどと同じ戦法で登りを通過する。今回は先ほどよりも登りがきつく感じたので、登り切って前方を見ると結構後ろまで下がっていた。あわててギアを最大にして集団の前方に復帰。会社の同僚のS君が頑張って集団を引いているのが見える。練習不足と言っていたが、走り始めると燃えてくるのはみんな同じなんだなあと、妙に感心してしまう。
平地区間を過ぎてゴールに向かうアップダウンに入ると、集団のスピードがだんだん上がってくる。いったいどうしたのかと思っていたら、3周目の終わりにポイント賞があるのを思い出す。
ここで何となく集団の前方に押し出されて、集団を引いている自分を発見。後ろを見ると、いつも顔を出している黄色いジャージのチームの選手と、その後ろに同僚のS君がいる。一瞬迷ったが、ここで一気にペースを上げて集団の足を使わせるのも作戦かと思い、下りで一気に加速。登りはその惰性で登り切り、ゴール前の下り坂まで目一杯踏み込んでそのままゴール手前200mまで頑張り、あとはコースの左に寄って黄色いジャージの選手と、同僚のS君がスプリントを掛けてゴールを通過するのを見守る。
スプリント合戦が終わり4周目に入った下り坂区間で集団に追いついて、S君に「取れたかい?」と聞くと「取れました」との返事。ここで集団はかなり疲れたようでスピードが落ちローテーションも全然回らなくなる。集団を引くのは私と数人の選手だけで、私も先ほどの鬼引きの疲労が残っていて、積極的に集団を引けず、結果として集団はここでかなり回復してしまう。ちょっと作戦ミスかなと思って中間の登り区間に入ると、今度はかなり強力なアタックがかかり、4~5人の選手が先攻して頂上を通過するのが見える。私は約100m近く遅れて頂上を通過、逆に登りで足を使っていない分、下りでガンガン踏み込み、続く平地区間も45~50kmで飛ばして行くと、平地区間の終わり近くで逃げ集団に追いつく。後方を見ると私の後ろに何人かの選手が続き、逃げ集団も私が近づくのを確認すると一気にスピードを落として集団は一つにまとまる。
「う~ん、俺はいったい何をしているのだろう」とここで自問自答。なんだかうまく利用されているような気がするのは私だけか?
先ほどの逃げ集団もつぶれ、ゴール前のアップダウンを走っている内に、そういえば片平さんやチーム員が、給水ボトルの受け渡しの練習を一所懸命していたのに、まだ受け渡しをしていないのに気がつく。周回ももうラスト1周を残すだけだし、ここでみんなの苦労に答えるためにボトルの受け渡しに挑戦しようと決める。ボトルの受け渡しはしっかりと決めたいので、なるべくならば集団の中にいるよりは集団の前の方が安心できるので、ゴール1km程手前からスピードを上げて集団から離れ、ゴール前の坂も結構真剣に上って徐々に道路の右側に寄り、空のボトルを左手で取ると、ボトル回収役のチーム員の前に軽く投げ、今度は右手で慎重にエネルゲン入りのボトルをチーム員から受け取る。思ったよりもスムーズに受け渡しが終わり、これでチーム員も私も心晴れ晴れ、うまく補給できたぜ!と少し得意になって下りも気分良く降りて行った。
そういえば補給に夢中で、ラスト周回のジャンの音も聞いていなかったなと思って回りを見渡すと、優勝候補筆頭と位置付けて注目していたTIさんと二人でローテーションしているだけなのに気がつく。「あれ、どうしたの」と後ろを振り向くと「あれ~、誰もいない」。いつの間にか集団から逃げている自分に気がつく。
普通逃げる場合は、逃げると言う気合いが必要なのに、こんな事もあるのだなと思い、気持ちを切り替える。作戦としては中間の登りを過ぎた下りで一気に逃げるつもりでいたが、このまま最後まで体が持てば2着はゲット出来るので、かなり早いけれどTIさんと高速で早いローテーションを心掛けてずんずんと進む。心拍計はすでに170HRを越え、AT値を越える状態で走っている。
平地区間を越えて、緩やかな登り区間は何とかこなすが、気が抜けるとTIさんのスピードについて行けなくなる。大滝ロードでの成績は伊達じゃない、この人本当に速いと、早くも心は折れ始める。ようやく中間地点の登りにさしかかるが、十分に前も取れず、ローテーションも出来る状態でないので、TIさんに「登り遅いので先行って下さい」と声を掛けてズルズルと後退してしまう。
坂の中間点で後ろを振り返ると、目の端にヘルメットキャップのピンクの塊が見える。このままだと頂上付近で後続集団に追いつかれそうだったので、必死にペダルを回して頂上を通過する。TIさんは下り坂の100mほど先を走っているので、今度はこちらの得意な場所とばかりにスピードを上げ、平地区間の中間付近でTIさんに追いつく事が出来た。
平地を過ぎたヘアピンカーブで後続を見ようとしたが、平地で差が開いたようで確認できず。ただし、この先のアップダウンで集団も本気モードに入るだろうし、TIさんの得意な登りが続くので、自分の得意な下りのスピードを充分生かして走らないと厳しい状況は変わらず。ヘアピンカーブの後に続く登りは体力のない状態では思ったよりも厳しく、先頭に立って走るTIさんの背中がどんどん小さくなって行く。私は必死に走っているものの離されすぎないようについて行くのもやっとの状態であった。しかし、登りがゆるくなって来るとTIさんの背中が若干大きくなり、だんだん距離が詰まってくるような気がした。
この長く辛い登りが終わりかけた所に直角T字路があり、そこで後ろを振り返ると後続集団が見えたが、思ったほど距離は詰まっていないので、なんとか逃げ切れそうに感じた。T字路から先についてはTIさんに追いつくことを目標に、下りも登りも休まずに目一杯飛ばす。そのうち、周囲の景色がモノクロに見え始め、視野が狭くなって来て、「こりゃ、そろそろ限界かな」と感じ始めた時、急にTIさんの背中が目の前に見えたので少し驚く。どうやら少し長めの下りの後の登りで、下りでスピードに乗れないTIさんは失速気味になり、私は下りのスピードを殺さずに登り切る事ができたので急接近したようだ。そのままの勢いを維持して、登りの途中でTIさんの前に出る。そこからは数回アップダウンを繰り返してゴールのはず。最後の登りでTIさんにやられてもしょうがないと全力でアタックする。後ろのTIさんを振り返って見る余裕なんて全然無かった。
残るいくつかのアップダウンを何とかスピードを維持してクリアし、いよいよゴールに向かう最後の長い下り坂に入る。ギアを重くするために変速するが、足の感覚もあまり無く、いったいどこに入っているのか全然わからない状態で、とにかくスピードアップのために全力で回す。スピードメーターを見ると60kmまで届かず、残っている体力もいよいよ底をついて来たようだ。
一番スピードが乗るはずの下りが終わり、ゴールに向かう最後の登りにかかる。ここからはTIさん得意の登りだ。TIさんの位置を確認したいが、振り返る時間とパワーロスが恐ろしいので、ひたすら前進するために心のパワーを振り絞る。
不思議なものでギアのダウンも意識しなくても丁度良いタイミングでチェンジすることが出来、ようやくゴールラインが見える位置までたどり着いて、最後の一絞りのパワーが必要になった時、今度は私の耳にチーム員と思われる何とか勝って欲しいと言う気持ちのこもった、悲鳴にも似た声が聞こえた。
そして応援の声に後押しされるように、一滴だけ残っていたパワーが涌いてきて、最後の十数メートルを走りきることが出来た。ゴールを切った後は勝った、負けたと言うよりも、全てを出し切って走りきったと言う気持ちだけが心の表面にあり、自分が勝利者になっている事すら忘れ、ここまで頑張らせてくれたTIさんに対する感謝が湧き上がってきた。勝利者の雄叫びもなく、握り拳を天に突き上げるでもなく、TEAMアティックの一員として、100%戦いきった純粋な喜びだけがゴール後の私の全てでした。
そして共に戦いに参加してくれたチーム員や友人に対する感謝も忘れてはならないだろう。ゴール前で崩れ落ちそうになった、あの瞬間に手をさしのべてくれたのは、チーム員と、ブルベ等で共に走った友人達の声であった。あの不思議な瞬間、どこからともなく涌いてきた力を与えてくれた皆さんに心から感謝してレポートを終えます。
author:とだ